___戻ってきた一成___
「と、言うわけで、俺は引き続きマネージャーを。佐久間さんはコーチ兼顧問で丸く収まったからよろしくな」
「待って佐藤く!? おれの仕事増えてない!?」
「増えてませんよ。毎日来てくれるから、みんな佐久間さんの言うこと聞けよ」
「本当に毎日なの!?」
バインダーを持った一成と、その隣に背中を丸めた佐久間が並ぶ。
昨日までの流れから一変したため、部員たちは唖然としている。
「え、かずなり、もうこないんじゃなかったの…?」
「は? …佐久間さん、言ったんすか」
じろりと見上げると、佐久間は全力で両手と首を振った。訝し気な目で追及する一成から逃げるように、だんだんと顔が横に向いていく。
「…まあいいや。俺はこれからもちゃんと来るよ。みんなで優勝するんだろ。じゃあ準備運動から始めてくれ」
解散の合図で、各々ラケットを持ってコートに入って行く。すると、いろはが真っ直ぐ一成の前に来た。
「? どうかしたか?」
「…ううん、なんでもない。ちゃんと来てくれてよかった」
微笑んだいろははそれだけ言うと、テニスコートに向かう。一成は首を傾げながらそれを見送った。
隣で佐久間が、何かを納得したように頷く。
「なんすか」
「いや~~~やっぱ高校生って眩しいなって…」
「なに言ってんすか…」
ニヤニヤしながら肘で突いてくる佐久間を振り払って、ベンチに座る。その隣に佐久間も座ってバインダーを覗き込んだ。
「いいなあ、おれが高校生の時なんかもっと灰色だったよ? ていうか高校はあの悪魔に散々いじめられてたから青春なんてもんはなかった」
「姫城先生と高校一緒なんですか?」
「うん。あと、あいつの旦那、おれの元ペア」
「…は? マジですか?」
「マジマジ。おれが扱き使われてるの隣で見てきたやつが、あいつの隣に収まるんだよ? 人生何が起きるかわからないよなあ」
ははは、遠い目をしながら笑う佐久間。一成はバインダーに挟まれた一枚の紙に視線を戻し、問い掛けた。
「佐久間さんは、いつテニス辞めたんですか?」




