___一成の決意___
「あ、姉さんおかえり」
「うん! ただいま雪奈ちゃん! あれ、佐久間さんは?」
水筒を開けた雪斗に気付いた雪奈が、コートの中から声を掛ける。にぱっと笑顔で答えた雪斗。雪奈の表情が一瞬で訝しげなものに変わった。
「姫城先生のとこ…っていうか姉さん、何かやったの…?」
「えっ!? …い、いや、何も! ちゃんと走り込みをこなしてきましたよ!?」
じとりとした視線から逃れるように、歪んでないガットをいじる。
「…まあ、大事にならないんなら別にいいけどさ…」
「ならないならない! 雪奈ちゃん、お姉ちゃんのことなんだと思ってる!?」
「姉さんストローク練習付き合って」
「無視!?」
すたすたとコートの反対側へ行ってしまった雪奈を追いかけてコートに入る。一瞬、桜の木を振り返った。
一成の姿はもう見えない。この位置からだと、先ほどの場所は死角になっている。じっとそちらを見つめて、小さくため息を吐いた。
「…困るんですよねえ、途中で投げ出されちゃ」
「姉さーん?」
「はーい! いいよー!」
☆ ☆ ☆
一成は、先生に止められない程度の速度で廊下を走る。下駄箱で上履きに履き替える時間も惜しい。早く、早く。
保健室の前に着いた時には、息が上がっていた。
右手には捨てられなかった大会要項がぐしゃぐしゃのまま握りしめられている。じんわりと手汗がにじむ。扉にかけた手が、少しだけ震えた。震えを止めるために深呼吸をし、扉を引く。
「…あら、どうしたの?」
目をぱちくりとさせた姫城が首を傾げる。その隣で佐久間が、扉の開閉音に肩を跳ねさせていた。
「姫城先生、俺に、まだマネージャーやらせてください。最後まで…!」
そう言いながら、ぐしゃぐしゃになった大会要項を机に置く。
姫城はそれを丁寧に伸ばしながら、苦笑いした。
「まあ、そう言うと思ってたわよぉ」
「…すみません」
「いいのよぉ。何をするのも、あなたの自由よ」
大会要項を紙飛行機にした姫城は、それをゴミ箱に向かって飛ばす。
「…でも、理由だけ聞いてもいい?」




