___保健医兼顧問・姫城___
「ふぅん…泥棒、ねえ」
ひとしきり事情を聞いた茜は、うんうんと頷く。
「ま、そりゃそうよねえ。うちの部室、鍵簡単に開いちゃうもの」
「えっ、そうなんですか」
汐が驚いて目を丸くする。
茜は、そうよお、と頬に人差し指を当てて目を閉じた。
「この間は、女子サッカー部の部室が荒らされてたらしいわあ。その前は女子バレー部と女子バスケ部」
「それ、校長か理事長に訴えた方がいいんじゃないですか…」
雪奈が青ざめた表情で言う。
当然の反応だ。陽ノ朱高校に女子の運動部はソフトテニスを含めて五つしかない。
そのうち、既に四つが被害を受けているのだから。
「校長も理事長も動いてるわあ。でも、あんまり上手く行ってないみたい。どこから侵入してるのかーとか、何一つ見当ついてないみたいなのよお」
困るわよねえと頬に手を当てる茜。
部室に貴重品は置いてないが、女子として部室に誰かが入っているのはとても嫌だ。
「そういえば姫城先生。珍しく今日は顔を出しに来たんですね」
「あらー酷いわねえ、一成くん。これでも私、顧問なのよ?」
「俺に全て丸投げしてるの、何処のどいつですか」
「ここの私ねえ。でも、しょうがないじゃない? 先生だってね、忙しーの」
菜摘がぼそりと「生徒の生気吸ってんじゃね?」と呟いた。
「怪我人いっぱい来るんですか?」
「んーん。研修とかプリント作成とかあ…まあいろいろ?」
雪斗の問いに、茜はのほほんと答える。
「絶対生気吸ってるんだあああああ!」
「菜摘ちゃんは私を何だと思ってるのかしら?」
にっこーと笑う茜。
菜摘はさっと目を逸らし、一成の後ろに避難した。
「おい俺を盾にするな!」
「いいじゃん男でしょ!? 助けてよマネージャー!!」
「全部お前が原因だろ!!」
怒鳴る一成を横目に、いろはが話を修正する。
「先生、私練習着盗られたみたいなんですけど…」
「そうよねえ。他の部活、荒らされただけで何も盗られてなかったわ。うちだけよ」
えぇー…と香澄が声を上げる。
いろはが頭を抱えた。
「え? 何で私だけ? え? え?」
「落ち着け相里」
「落ち着けると思う!?」
一成は少し間を置いて「無理だな」と答えた。
「でもまだ盗まれたって決まったわけじゃないですし。終わったらみんなで探しましょう? いろは先輩」
「う、うん…。そうだよね」
「先生も手伝ってくれますか?」
「ごめんねぇ雪奈ちゃん。先生やること思い出しちゃったから行かなきゃ。一成くん後お願いねぇ」
は、と言う前にヒールをコツコツ鳴らしながら帰ってしまった茜。
「な…何ていうか、自由人ですね…?」
「うん。ああ言う人なんだよ」
香澄が呆然とそう言い、隣で汐も茜が歩いて行った方を見つめる。
雪斗は苦笑いして頷いた。
「さて、練習再開するか」