表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/51

___一成の怪我___

「…どういうことですか、姫城先生」


一方その頃、一成は保健室にいた。

生徒の健康診断表が並べられた机を挟んで立ち尽くす。一成は、運動機能の項目でバレたかと、並べられたそれを睨みつけた。


「そのまんまよぉ。あなたの怪我はもう完治してるんでしょ? プレイヤーに戻るいい機会じゃない? って」


紙束をひらひら振りながら、姫城は繰り返した。何度言わせるのよぉと頬を膨らませる彼女に、一成は唇を噛む。


「うちは男子ソフトテニス部はないけど、個人的になら出られるのよぉ。同じ学校の生徒と組まなきゃいけないってルールもないし」

「俺はもう」

「あのね、一成くん」


姫城は一成の言葉を遮った。


「無理強いをするわけじゃないわ。けど、もし…、もし、あなたにまだ未練があるなら、これが最後のチャンスなのよ」


姫城は持っていた紙束を一成に渡して、微笑んだ。


「しんちゃんを呼んだのは、みんなのパワーアップと、しんちゃん本人の為と、あなたの為なのよぉ。ねえ、一成くん」


ぽんと肩を叩いた姫城は、そのまま保健室備え付けのデスクに戻る。


「自分が後悔しない選択をしなさい」


☆ ☆ ☆


「後悔しない選択、ねえ…」


非常階段に座り込みながら、一成は渡された紙を眺めた。大会要項、女子のではなく男子のだ。珍しい、シングルスもある。


一成の腕の怪我が完治したのは、去年の夏だった。

姫城先生に連れられてソフトテニス部のマネージャーを始めた時はまだ二の腕に包帯を巻いていたから、軽い雑用しかできなかった。重いものを少しずつ慣らしていき、それをリハビリにしていた。一年の冬頃から姫城の代わりにメニューを組むことが多くなり、そうして今の位置に落ち着いた。


「…後悔ならもうとっくにしてるっつーの…」


もう何ともない利き腕を摩りながら、一成は自嘲した。


今でも鮮明に思い出せる。

負けた相手が振りかぶったラケットが、逆光を受けているさまを。咄嗟に出たのが利き腕だったことを。体を捻って、本能が真っ先に守ろうとしたのは頭だった。ラケットは頭に当たらず、二の腕に直撃した。骨が砕ける音がした気がして、痛みで頭が真っ白になって、それでも彼は、「何で右手を出したんだ」って後悔した。

医者からも親からも、「咄嗟に頭を守れたのは偉い」と言われたが、一成はずっとずっと、固められた右腕を握りしめていた。

医者と親が言ったことは正しい。頭に打撃を受けていれば、最悪死ぬ。これでよかった。でも、左腕を出せなかったことを悔いていた。


一成は大会要項を一枚ずつぐしゃぐしゃに丸める。


「…俺はもう、右手でラケット握りたくねーんだよ…」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ