___佐久間さん___
悪魔と呼ばれた姫城は綺麗に描かれた眉を顰めた。
「誰が悪魔よぉ」
「お前だよ! なんだこの書類!」
バサバサと暴れる紙を受け取った姫城は、一通り目を通したあと、ポンポンと判子を押した。
「うん、偉いわねぇ~ちゃんと書けてたわ」
「…いや待て待て待て待てまさか今承認の判子押した!?」
「じゃあ来週からよろしくねぇ」
「違う! 承認してもらいに来たんじゃない!」
「ここ保健室よぉ。騒がないで、しんちゃん~」
「あ、ごめん…」
しゅんと声のボリュームを落とす佐久間。姫城は心底楽しそうに笑う。
「いい子ねぇ」
「…おれは顧問なんてやらないぞ」
「でも書類貰っちゃったしぃ」
「返せ!」
「嫌よぉ。この子たちを任せられるの、しんちゃんしかいないのよぉ」
ぐっと黙り込む。
膠着した姫城と佐久間に、一成がおずおずと手を挙げる。
「あの、お二人はどういう関係なんですか…?」
姫城はいったん開きかけた口を閉ざした。そして、にまぁっと笑う。
「どういう関係に見え」
「従姉弟だ!!」
佐久間が遮るように叫んだ。姫城は肩をすくめて「面白くないわねぇ」とごちる。
「昔っからこいつは横暴で! おれに何も言わずに何でも進める! おれが寝てる間にゲーム全クリしたこともあった! あれは今でも許してないからな!!」
「だってしんちゃん、進めるの遅いんだもん…」
「おれはおれのペースでやってるの!!」
ダンダンと駄々っ子のように足を踏み鳴らす彼に、姫城はため息をついた。
「とにかく、顧問の件は頼んだわよぉ。わかんないことあったら連絡してくれればいいから」
「おれはやるなんて一言も!」
「じゃあなんで書いてきたよ」
佐久間が固まった。姫城はキラキラ輝く爪で、彼の頬を突く。
「大丈夫よぉ、みんないい子たちなんだから。来週からでいいわ、頼んだわよぉ~」




