__汐ちゃん言った__
「ああ、川守か。どうした?」
汐は上にある一成の目を、じぃっと見つめた。
「…あの、兄が怪我はもう大丈夫かって」
乱打をしていたいろはと菜摘が固まる。飛んできたボールは、いろはの足元で跳ねて、フェンスに当たる。
「…あー…聞いたことある苗字だと思ってたけど…やっぱり妹か…」
苦笑いした一成は「もう何ともないって伝えてくれ」と言ってバインダーに視線を落とした。
立ち尽くすいろはの元に、驚いた顔のままの菜摘が来る。
「…き、聞くんだ」
「汐ちゃん凄い…」
菜摘は目を丸め、いろはは感嘆の声を漏らす。
「…やっぱり、テニスしたいのかな」
いろはが言う。その視線は一成に向いていた。
もし、一成が、テニスがしたいと言って。マネージャーを辞めることになったら。
「…」
「…いろは、もしかしていっせいのこと考えてる?」
「はい!?」
突然顔を覗き込んできた菜摘の言葉に驚きの声を上げる。
「あ~…その反応はマジだな?」
「ちょ、菜摘…!」
「大丈夫! 言わないよ。私の可愛い天使の恋心を、そう簡単に外に漏らすはずないでしょ!」
「菜摘~!!」
ぐっと親指を立てる菜摘。いろははその親指を、真っ赤な顔で抑えこんだ。
「おい何してんだそこー。遊んでないで乱打しろー」
「あー何でもないごめんいっせー」
「かーずーなーりーだー!」
菜摘が返すと一成が切れ気味にまた返した。
いろははそのやり取りに苦笑いし、ボールを拾いに行く。
「相里、乱打終わったら来てくれ」
フェンス越しに目が合う。
一拍おいて、いろはの頬が赤くなった。
「う、うん、わかった」
「? 大丈夫か? 顔赤いけど…熱中症だったらやばいな。ちょっと休むか?」
「違うよ! 大丈夫!」
「そうか? あんまり無理すんなよ」
「うん、ありがとう!」
言い切らないうちにいろははコートに戻る。一成は様子のおかしいいろはに首を傾げた。




