__汐の兄と一成__
「け〜っきょく、なんの収穫もなしだよ〜!」
「ただ駄弁ってお昼食べて…いつも通りだね…」
空になった弁当箱を揺らしながら、二人は自分たちの教室に戻る。
「あ! 先輩〜!」
階段を上っていると、上から香澄の声がした。顔を上げると、手すりから身を乗り出して、汐と香澄が手を振っている。
「どうしたのー?」
「先輩たち探してましたー!」
「今からそっち行くから体引っ込めてー」
いろはが声を掛けると、元気よく返事をして手すりから身を引いた。
「どうしたの?」
階段を登りきって、踊り場で一年二人と合流する。
「あのあの、聞きたい事があって!」
「うん、何?」
「汐ちゃんが!」
香澄が汐を前に出す。汐は少し視線を彷徨わせてから、ゆっくり口を開いた。
「佐藤先輩のことなんですけど…」
いろはと菜摘がアイコンタクトをとる。なんだ? もしかして、一成がどうしてマネージャーをしているか、とか? それは二人も知りたい。
「…佐藤先輩、もしかしてどこか怪我をしていませんでしたか?」
「…怪我? はー…してないけど…?」
菜摘が目を丸くして復唱する。
「あ、私の勘違いかもしれないんですけど、…お兄ちゃんが、佐藤先輩のこと知ってて」
「えっお兄さんが? なんで?」
食いついたいろはに、汐は目を伏せた。
「それは教えてもらえなかったんですけど…でも、佐藤先輩の名前は知ってて。怪我は大丈夫なのかって言われたので…」
いろはと菜摘はもう一度顔を見合わせた。
一成が怪我をしたということは聞いた事がない。中学の時は知らないが、高校に入ってからは大丈夫かと問われるような怪我はしていない。ならば、汐の兄が言っているのは中学の時の話か。
「…汐ちゃん、その話詳しく聞いてきてもらえたりする?」
「あー…なんか、お兄ちゃんあんまり言いたくないみたいで…。怪我の話だって、名前聞いて驚いて口から出た、みたいな感じだったし…」
申し訳なさそうに眉を下げる汐。そうだよねといろはは苦笑した。
予鈴がなる。一年が慌てて自分たちの教室に戻っていくのを見送った。
「中学かぁ…それはわかんないなぁ」
「ね。…うーん、気になる」
「いっそ本人突撃する?」
「絶対話してくれないよー」




