一成の秘密
「ねーねーいろはぁ」
後輩との練習が終わったいろはを捕まえた菜摘は、そっと一成から離れた。
「何?」
「一成って、なんでマネやってるのか知ってる?」
「え…? …そう言えば、何でだろ」
いろはの視線が、一成に向く。
後輩にテキパキと指示をする姿は立派なマネージャーだ。思い出せば、彼女たちが一年生の入部したばかりの時、一成はマネージャーをしていなかった。
彼がマネージャーとして合流したのは高校一年生の夏休み。普段は来ない顧問が突然連れてきたのだ。
当初はマネージャーというより雑用係といった風だった。しかし冬頃から姫城先生の代わりにオーダーを組んだり、練習メニューを提案したり。それがあまりにも的確で、すぐに部長の信頼を得た。
経験者なんだろうな、とは思っていたが、そういえばどうして選手ではなくマネージャーをしているのかは知らない。
「いろはも知らないかぁ。一年二年って同じクラスだからもしかしたらって思ったけど…」
「うん…あ、姫城先生に聞く?」
「げえ…やっぱそうなっちゃうよねぇ」
少し考えた後、菜摘は息を吐いた。
「…行こっか、明日。保健室…」
「腹括ったんだね…」
「大丈夫。だって私いろは一筋だし。天使はいろはだけだし。姫城先生がなんだ! かかってこいやあ!」
「うん、何言ってるのかわからない」
自分に言い聞かせるように呟く菜摘の言葉を、いろはは聞かなかったふりをした。
☆ ☆ ☆
「そういうわけなんですけど姫城先生、何か知ってますか?」
「なんだぁ、先生に会いに来てくれたんじゃないのねぇ」
「うん。ついでにお昼食べに」
そう言って菜摘は保健室でお弁当を広げ始める。いろはも、小さくすみせんと言ってから椅子に座った。
「んー、まぁ、一成くんは確かに経験者よぉ。私がお願いしたの」
「マネージャーをですか?」
「ううん、コーチを」
菜摘が口に入れかけたプチトマトを落とした。
「…コーチ?」
「うん。でも断られちゃったのよぉ」
「そりゃ…そうでしょ、同年代のコーチって聞いたことない…」
確かに、一成がやっている業務はマネージャーというよりコーチに近いかもしれない。
「…何でコーチをお願いしたんですか?」
いろはの問いかけに、姫城先生の口元が三日月に歪んだ。
「内緒。でも、断られたからコーチは諦めたわぁ。あんまりしつこくても、嫌われちゃうもの」
立てた人差し指を三日月型の唇に当て、彼女はそれ以上一成のことを話さなかった。




