__マネをしている理由__
「馬鹿か?」
「いっせいより頭いいです〜」
「無理だろ。ラケットもないし。…もう俺はやんねーんだよ」
一成はバインダーに視線を戻した。
「…地雷踏んだか…」
「なんか言ったか?」
「いんやなーんにもー。一成が相手してくんないんじゃ、後輩にちょっかいかけに行こっかな」
「ほどほどにしてやれよ」
コートに戻りながら、菜摘は先程の言葉を反芻していた。
もうやらない。できないじゃなく、やらない。
一成がテニス経験者なのは知っていた。毎日メニューを立て、顧問の代わりをしているんだから、気付かない方がおかしい。
けど、どうして高校に入って、マネージャーをしているのかは知らなかった。
確かに、陽ノ朱高校に男子のソフトテニス部はない。硬式テニス部に至っては、男女両方ともない。しかし部活でなくとも、外にはスクールがある。そちらでやればいいのでは? と思うが、彼はそうしなかった。
「…一成だって、言ってないことあんじゃん」
小さく零して、あとでいろはに聞いてみようと気を取り直す。
「あ、菜摘先輩! あの、ハイボレー苦手なんですけど、コツとかありますか?」
香澄がぴょんぴょんしながらこちらへ来る。
「ハイボレー? あー…、ちょっとやってみて!」
「はい! あ、汐ちゃーん! ハイボレー上げてー!」
香澄に呼ばれた汐は、ひとつ頷くとカートを引っ張って、逆コートからボールを二、三回上げてくれた。
香澄は、ラケットの面には当たるものの、手前に落ちない。後衛の一番打ちやすい位置に落ちてしまう。
「んー、面が上むいてんだね。まっすぐ伸ばして、当たった瞬間くらいに面下げてみて」
「はい! 汐ちゃーん!」
呼ばれた汐はボールを上げる。
「…あっ菜摘先輩今の! 今のどうです!?」
「マロン呑み込みが早いね…」
少し教えただけですぐにこなしてしまった。
菜摘は驚きを隠せないというように、目をまん丸にする。
「おーい! 休憩入れー!」




