___姉妹喧嘩___
「おはよう、相里」
「あ、おはよう。合宿所取れた?」
朝。通学路でいろはを見つけた一成は、挨拶をしながら隣に並んだ。
「あー…うん。一応。来月にもう一回行くけど」
「あはは…佐久間さん」
これから朝練だ。菜摘は遅刻するだろう。
どうにかして遅刻癖を直せないだろうかと一成は思う。が、多分無理だ。
「…一成、次の予選…」
「ああ、来月だ。勝つと予想しての末の合宿だからな。頑張れよ」
「その事で相談なんだけど」
一成は、いろはの相談事に目を丸くした。
☆ ☆ ☆
「…喧嘩したんだって? 双子」
「「うっ」」
テニスコートで腕組み仁王立ちの一成。と、その前に並ぶ木暮双子。
「だって! …雪奈ちゃんが」
「気にしないでください、ただの姉妹喧嘩ですから」
雪斗の言葉を打ち切るように雪奈が言葉を被せる。雪斗は目を丸くして雪奈を見たが、すぐに目を逸らした。
仲違いしたか? と思ったが、雪奈の表情がいつもより数倍険しかったので聞けなかった。
二人がコートに散ってから、一成はいろはを呼ぶ。
「ど、どうしたんだあいつら…ガチ喧嘩じゃないか」
そうなんだよね、といろはは苦虫を噛み潰したような表情をした。
「昨日の部活終わりに、雪奈が急に言い出したの。『しばらくペアを崩して欲しい』って」
「…は?」
素っ頓狂な声をあげる一成。いや、だって。
「この間の試合で、ペア崩したくないって…」
「うん。…よく、わかんないけど。崩すっていうか…雪奈も後衛練習したいみたいな」
「…突然だな」
雪奈が後衛練習に加わるのは賛成だ。でも、雪斗がそれを良しとするか。
そして、何故「ペアを崩したい」とまで言ったのか。
「…予選前だっていうのに」
テニスコートに戻るいろはを見送りながら零す。
ペアで練習する時間も、二人の間に会話はない。一年ペアは心配そうに二人をチラチラ見ている。
雪斗は、本気でショックそうな顔をしていた。
「あああああっ! おはよういっせい! 間に合った!?」
「間に合ってねーよ」
バタバタと練習着にスクールバッグを背負ったスタイルで駆け込んで来た菜摘が、テニスコートを見て首を傾げた。
「…双子どったの?」
「え、お前知らないの?」
「あー、昨日練習終わったらその足で帰っちゃって。制服部活なんだよね」
それでその格好か、と一成は納得した。
「あのな…」




