___佐久間慎也___
「えーっと、それで…なんだっけ? バーベキュー?」
「…合宿です」
遡る事一時間前。今日の部活は姫城先生が見てくれると言うので、一成は放課後に件の合宿所にやって来た。
入ってまず、管理人が出てこない。インターフォン押しても返事がない。しかも玄関の鍵が開いている。
仕方なく、管理人を探しに合宿所へ入った。去年のことを教訓に、まずは風呂場に。いない。
また走り回るのかと、キリキリ言い始めた胃を抑え、合宿所を回る。
ようやく見つけた管理人は、厨房で寝ていた。
黒い髪を川のようにうねらせ、床で丸まっている細い体を揺する。何回か揺すると、低い声で唸った。
「…ああ、陽ノ朱んとこのマネージャーくん…」
「こんにちは佐久間さん。起きてもらっていいですか。合宿の予約したいんで」
のそりと起き上がる彼、佐久間慎也。ここの管理人だ。
女の人のように長い髪、不摂生が原因であろう細い体。一見すると男には見えないが、声は相応に低い。
「…合宿? もうそんな季節か?」
「もうそんな季節です」
「そうかー…」
そう言いながらのそのそと歩く佐久間について行く。
管理人室について、あの会話だ。
「えーっと、それで…なんだっけ? バーベキュー?」
「…合宿です」
三歩歩いたら忘れる鶏か! と一成は心で突っ込んだ。そんなことはつゆ知らず、佐久間は「あー合宿」と呑気な声を出し、カレンダーを捲る。
「いつ?」
「来月末くらいにお願いしたいんですけど」
「うんうん、わかった。じゃあ一週間前になったらまた来て。おれ忘れてると思うから」
「何のためのカレンダーですか。書いといてください」
「書いても忘れるんだよ。カレンダー見ないし。そもそもこの部屋に入るのだって、一週間に一回あるかないか…」
「ここ管理人室ですよね?」
「だからもう一回来て。あとこれ」
最早、面倒くさがりというレベルではないような気がする。
佐久間が一枚の紙を一成の前に出す。予約票と手書きで書かれたそれを見て、ため息ひとつ。
「…書けばいいんですか」
「うん、でも一週間前にもう一回来て」
「わかりました! また来ますから何回も言わなくていいです!」
手作りの予約票に必要事項を記入する。
それを楽しそうに見つめる佐久間。一成は書き終えた紙を提出した。
「はいどーも。じゃ、また来月」
「…お願いします」
合宿所からひらひらと手を振る佐久間に一礼して背を向ける。
振り回された、といつもとは違う疲労感を覚えながら、一成はそのまま家に帰った。




