__予選まで__
「予選まで、一ヶ月を切った」
ミーティング中。一成の言葉に、六人の顔が引き締まる。
予選まで、あと一ヶ月。この試合で勝てなければ、三年組の個人戦は終わりだ。
「知ってると思うが、この予選に勝てないと本戦もインターハイも出られない。負けたら、正真正銘今夏は終わり。わかってるな?」
「でも団体戦はあるでしょ?」
「まあな。うちは去年あんまり良い成績を残せなかったから、強い高校の下に入れられると思っといた方がいいだろうが」
バインダーに挟まった紙を捲りながら一成はぼやく。
いろはが小さく手を挙げた。
「…あの、一つ言いたいことが」
「おう、いいぞ」
集められた自然の中で、いろはは深呼吸する。
「私と菜摘は、予選で負けたらそこで引退です」
雪斗の顔が強張る。雪奈は苦い表情で目を逸らす。香澄は目を大きく開き、汐も持っていたペンを落とした。
引退。その言葉に、後輩は現実を突きつけられた。
いろはと菜摘と一成は三年だ。予選に勝てなければそれが最後。高校生活最後の試合になる。
「…だから、お願いがあるの。私は…団体戦、優勝したい。みんなで勝ちたい」
いろはの脳裏に浮かんでいたのは、去年引退した先輩たちの姿。
いろはと菜摘の上には、四人の先輩がいた。強かった。でも、負けた。
最後の団体戦、一回戦目で、負けた。
先輩は誰一人、泣いていなかった。凛と背筋を伸ばし、最後の挨拶まで、真っ直ぐ前を向いていた。
早々に会場から引き上げ、部室に戻って来た時四人の先輩は堰を切ったように泣き出した。
部室の入り口で、いろはと菜摘は呆然と立ち尽くした。先輩たちが負けた、という現実が目の前にあって、何も言葉にできなかった。
しばらくして、一人の先輩が口を開いた。最後にもう一度試合がしたい。先輩たちは四人で試合をした。いろはと菜摘は、コート外からそれを見ていた。
六月なのに咲いていた、遅咲きの桜が舞い散る中、先輩たちは泣きながら、最後の試合をしていた。
「…先輩たちの悔しさは、よくわかる。だから、私たちは勝ちたい。泣きながら引退するんじゃなくて、笑顔で引退したい」
一人一人の顔を見て、はっきりと告げる。
この時間は、永遠ではない。ずっとみんなでテニスができるわけではない。
だからこそ、最後は。
「…勿論です」
「先輩たちを笑顔で引退させられるよう、頑張ります!」
「笑顔、大事ですよ! ほら汐ちゃん笑って〜」
「…私はいつも笑顔だよ? だから、先輩たちにも最後は笑ってもらいます」
後輩四人が各々意気込む。
いろはと菜摘は、視線を絡ませて笑った。
「あ、いっせいは残るんだよね??」
「いや俺も引退するわ! 何で俺だけ留年させようとするんだよ!? あとかずなりな!?」
「いっせ〜、いっせ〜」
「桜井マジぶん殴るぞ…!」
微笑ましく様子を見ていた一成にちょっかいをかける菜摘。バインダーで叩かれていた。
「ふふ、じゃあみんなで、頑張ろう!」
「「「「「「おおー!」」」」」」
残された時間は、少ない。




