__犯人確保__
一方その頃一成は。
「部室棟…遠い…!」
勢いよく走り出したはいいが、テニスコートから部室棟までは距離がある。北條が見たのは、三分ほど前だろう。そして走っているとは言え、一成が部室に着く頃には、およそ五分が経つ。
逃げられていてもそう不思議ではない。
ようやく部室棟の前まで来た。二階に人影。女子ではない。太った男だ。
「逃すか…!」
一成は力を振り絞って走る。
そして階段の下へ先回りした。
「何してる!」
一成の怒号に、犯人は持っていたものを後ろ手に隠して元の方向へ走る。
一成は階段を駆け上がり、男を追い詰めた。
「うちの部室で、何してんだ…!」
「なっ、何で…ここ女子の部室だろ!? 何で男が来るんだよ!?」
壁に背をついて喚く男。手には見覚えのある部活着。
「あっ、おい!!」
男は柵を乗り越え下に飛び降りようとする。
二階とは言え、下はコンクリートだ。怪我するに決まってる。
「離せ!」
「いやお前ここから落ちたら死ぬからな!? 無理だからなここから飛び降りて逃走は!」
男のフードを後ろに引っ張る。
ふと、下に靡く栗色が見えた。
隙を突かれて男が階段へ走る。
「待て!!」
一成も追いかけるが、彼が階段に差し掛かった時、男はもう降り切っていた。
しくじった、と唇を噛んだその時。
「逃さないわよぉ」
甘ったるい声。次いで、ドスっという鈍い音。
聞き覚えのある声と、その主からは到底想像できない音に、一成は恐る恐る下を覗いた。
「…ひ、姫城先生」
「あら、ありがとお一成くん。お陰様で捕まったわ」
目を回して倒れる男の側にしゃがみ込む茜。
男がなぜ倒れているのかわからないが、とりあえず捕まったならよかった。
「あとは先生に任せて、あなたは戻りなさい。みんな心配してるわよお」
一成は頷いてテニスコートの方へ走った。
「いっせーーーい!!」
「誰がいっせいだ!!」
菜摘の声に反射的に返した。
そしてテニスコートに入ると、いろはが飛び込んで来る。
「大丈夫!? 怪我とか、犯人に何かされてない? 殴られてない!?」
「いや、あの、相里、近い」
いろはが顔を近づけ詰め寄る。
一成は顔を赤くして逸らした。
「大丈夫かい弟」
「ああ。あとは姫城先生に任せて来た。犯人も捕まったよ」
よかったと笑う市。香澄と汐もほっとしたように胸を撫で下ろした。
「…いろはあ? 心配だったのはわかるけど、いつまで抱きついてるの?」
菜摘がニヤついた声で言うと、ばっと離れるいろは。
自分の行動に赤面している。
「あ、ごめん」
「い、いや、大丈夫だ」
きょどきょどする二人に、木暮双子が顔を見合わせて笑った。
「いろは先輩、顔真っ赤ですよ」
「かず先輩やばい! 熱あるんじゃないですか!?」
「ないわ!!」
怒鳴る一成に、小さくなるいろは。
場を仕切り直すように、市が手を叩いた。
「はいはい。じゃあみんな、お開きにしましょうか。練習試合受けてくれてありがとう」
「いえ! こちらこそ、勉強になりました」
いろはが頭を下げる。
「でも、本戦では負けません」
その言葉に、市は笑った。
「こっちだって、負けないよ」




