___パンだけに___
「…川守栗野ペアは、今んとこ順調。それに比べて、木暮双子ペアは不調。だけど、自分の欠点明確にしようと頑張ってるな」
バインダーに挟まった紙にメモし、顔を上げる。
緑色のコート。行ったり来たりする白いボール。
「…いいな、青春」
ちらりと時計を見る。もうすぐお昼だ。
この試合が終わったらお昼休憩にしようか。一時間半くらい取って、また練習試合を再開しよう。
「姉貴、昼休憩にしよう」
「オッケー! かずかず、お弁当は?」
「俺は自分で作った。姉貴のは知らん」
「何で!? 何でお姉ちゃんの分作ってくれないのかずかずの馬鹿!!」
「お前は好みがめんどくせーんだよ! あれは入れるなだのこれは嫌だの! 車あるだろ自分でコンビニ行って来い!」
頬を膨らませた市は、部員に指示を出し車の鍵を持った。そして、コートを見て、車の鍵をしまった。
その顔は、さっきとは違ってにやにやしていた。
「なんだよ、その気持ち悪い顔は…」
「酷いなあお姉ちゃんに向かって! 菜摘ちゃん待ってるの!」
二コートの副審をしていた菜摘が、こちらを向いて叫ぶ。
「あー私いいですぅ! お一人でどうぞー!」
「えーっ! 寂しいから一緒に行こうよ? お菓子買ってあげるよ?」
「やめろ不審者みたいなこと言うな」
イヤイヤと全力で首を横に振る菜摘に、市は諦めたのか車の鍵を回しながら歩いて行った。
「あーっよかった…」
「菜摘ちゃんと副審やってー」
「ごめんねいろは! ちゃんとやる!」
☆ ☆ ☆
「やっとお昼だー!」
「お腹空いた…」
部室に入って倒れこむ菜摘。朝ごはんを食べていないらしい。
「汐ちゃんグミ好き? レモングミあげる!」
「ありがと」
「先輩たちもどうぞー!」
各々昼食を広げる。
いろははいつも通りの二段弁当。
菜摘は惣菜パン一つと菓子パン二つ。
雪斗は肉中心のお弁当で、雪奈は野菜中心のお弁当。
汐はコンビニで買ってきたおにぎりとサンドイッチ。
香澄はコンビニ弁当。
「雪斗と雪奈の家はさ、二人とも毎日おかず違うけど、お母さんが作り分けてくれてるの?」
「いやー、流石にそれはないですよ! 私のはお母さんが作ってますけど、雪奈ちゃんは自分で作ってます!」
私のも作って欲しいんですけどね! と雪斗が雪奈の顔を覗き込む。雪奈はふいと顔を背けた。
「姉さんは好き嫌いが多いので」
「雪斗らしいね」
いろはが苦笑いする。
菜摘はその横で、菓子パンを開けようと力を込めていた。
「ふっん」
開かない。
「…空気が入り過ぎてんだな。よし、破裂させちゃる!」
そう意気込んで、両側から勢いよく袋を叩いた。
ぼふ。
「…」
「…」
「…凄く、気の抜けた音ですね」
汐の言葉に、菜摘が肩を落とす。
「だってぇ、パン! っていい音すると思うじゃん…」
しくしく泣き真似をしていると、不意に扉が勢いよく開いた。外にいたのは、一成。
「パンだけに、パン! と鳴る!!」
「…何言ってんのいっせい」
「かずなりだ!」
「いやここ部室だからね?」
何しに来たんだよ、と菜摘が冷たい視線を送る。一成は片手に持っていた袋を菜摘に投げた。
「姉さんから。適当にお菓子買ったから食べてね、だと」
「わあ、ありがとうございますって言っといて」
「あいよ」
いろはが目を輝かせる。
一成は照れたように頬を掻き、扉を閉めた。
「佐藤先生、優しいよね」
「無理…あの人すぐ追いかけてくる…」
「何で菜摘先輩気に入られてるんですかね?」
「知らない…」
げっそりした菜摘。
ただ単に反応が面白いだけなのだが、市はそれを一生言わないようだ。




