__二人の憧れ__
「汐ちゃん!」
ぱっと笑った香澄が、汐の手を握る。
「頑張ろう!」
明るく笑顔を振り撒きながらポジションにつく。
汐はぼんやりと、その背中を見ていた。
中学最後の大会、汐は香澄に負けた。その香澄も、次の試合で負けた。
二人とも、結果を残せなかった。なのに。
負けた試合の後、香澄は笑っていた。
他のメンバーを慰めながら、香澄だけがただ一人。
それを見て、一人納得したのを覚えている。
私はあの子に負けた。あの子の方が強かったんじゃない、あの子の方が笑顔だったから。
点を取っても取られても、あの子は笑っている。釣られて、ペアも笑っている。
それに比べて、私は?
もともと乏しい表情に加え、試合中は気持ちが焦って笑顔を作る余裕すらない。
純粋に、羨ましいと思った。
ああ、私もあんな風にできたらな…。
「ファイブゲームマッチ、プレイ!」
汐がサーブを打つ。北條が打ち返す。それを、汐が短く返す。
数本、ラリーが続いた。
先に仕掛けたのは汐。
前衛のストレートを、抜く。
「…よしっ」
いろはのようなプレースタイルに憧れていた。そこに、香澄のような、周りを鼓舞できるメンタルが合わされば、最強なのではないか?
目標ができた。見本は近くにいる。
せめて、先輩が卒業する前までに。汐は目標に近付けるようになろうと、心に誓った。
「うわあっ汐ちゃんすごい! 素晴らしいストレートだね!!」
「…ありがと」
「私も頑張るね!」
ぱちんとハイタッチをして、ポジションに戻る。
汐は自分の頬を引っ張った。
そう簡単に、無表情は治らないか…。
頑張ろう、と頷き、サーブを構えた。
「…いいな、汐ちゃんは」




