___双子の想い___
「…どういうこと?」
「うん…この試合終わったら話すけど。もうレディ掛けられる」
そう言って、二人はボトルを置いた。
二コートでは、木暮双子ペアが押されている。
「…っ! 雪奈ちゃん、前出て!」
レシーブを返したと同時に、雪斗が指示する。雪奈はネットについてラケットを上げた。
雪斗がロブで振り回される。しかし、雪奈は下がらない。
例え雪斗が、コートの端から端まで走らされようとも、雪奈は下がらない。
下がれないんだ。
「…だって、私は…」
私は、ストロークの練習をしてこなかったから。
ボレーだけ、スマッシュだけをやってきたから。
だって、姉さんがそう言ったから。
可笑しいと笑われるかもしれない。でも、本当のこと。
双子はずっと、それぞれのポジションの練習しかしてこなかった。
雪斗は、ずっとストローク練習を。雪奈は、ずっとボレースマッシュ練習を。
ずっと、入れ替わりながら練習してきた。
「姉さっ…」
「下がらないで! いいから、前だけ見て!」
自棄になったように、雪斗はボールを追いかける。
ずっとずっと、雪奈に言い聞かせてきた。
『他に何もしなくていいから、ボレーだけ完璧に決めて』と。
そう言ったのは自分だ。自分が、妹の可能性を潰したんだ。
くっと雪斗は唇を噛んだ。
相手の後衛、一条和泉は、雪斗と雪奈の弱点を見破ってか、雪斗を左右に大きく振ってから前衛のいないショートクロスを狙っている。
前衛の清水花苗も中々厄介だ。スマッシュの威力は高いし、コースもキツイところを狙ってくる。
狙われてるのは、雪斗だ。
「姉さん!?」
ズシャッと、雪斗が転ぶ。
慌てて雪奈が駆け寄った。
うっすら焼けた肌に、赤い擦り傷。
雪斗は口を結んで、立ち上がった。
「…大丈夫! これくらい何ともないよー!」
「でも、血が…」
「いーの! 雪奈ちゃんは何も心配しないで。姉さんは大丈夫です!」
けろっと笑い、服の砂を払う。
そして雪奈が拾ったラケットを受け取り、くるりと一回回した。
「…大丈夫。だって、雪奈ちゃんと組めてるんだから」
独り言のように呟いて、バックラインに下がる。
雪奈も、位置へ戻った。
「…ねぇ、アナタはどうして下がらないの?」
「…ストロークができないからです」
清水は、きょとんと首を傾げた。
ぐっと、ラケットを握りしめる。
「…私は、姉さんと組むために、ストロークを捨てたんです」
ここで、勝たなきゃ。
顔も背丈も同じな私達が唯一、違うもの。
それを、証明しなきゃいけない。
私達は二人で一つ。だけど、二人は別のものなんだって。
小さい頃から、顔が同じだからと同じことばかりやらされた。髪型も服も、遊ぶおもちゃから食べる物さえ同じで。
挙句性格まで同じだと言われた。
そんな事はない。雪斗はボーイッシュな服が好きでアウトドア派で野菜が嫌い。雪奈はガーリーな服が好きでインドア派で肉より野菜が好き。
見た目は一緒でも、中身は全部違った。
「…証明、するんだ…。私と雪奈ちゃんは、ここで…!」
その為に、周りを偽ってまでポジションを固定した。
万が一、二人に同じポジションの才能があったら、組めないから。
それが、片割れの可能性を潰す事だったとしても。




