__部長の責任感__
「いろは右!」
菜摘の頭上を越え、ボールがバックラインに落ちる。
それをいろはが打ち返した。
「…まっずいな…」
菜摘が汗を拭いながら呟く。
ゲームカウントツーワンで相里桜井ペアが先制しているものの、先程から相手に押されている。
そんなことを考えている内に、瀬戸が短くボールを返した。
「いろは、前っ!」
後ろに下がりながら菜摘が指示。
いろははギリギリボールに追いつき、返す。
「あっ」
返した所には、上杉が。
バシュ、と音を立てて足元をボールが弾んで行く。
「…ごめん」
「落ち込まないでいろは」
まあ落ち込むのも無理ないか、と菜摘は思った。
流れは完全に向う。いろはは、左右に走らされ前後に走らされ、ミスを誘われている。
「…だいじょーぶ。遅刻の分より多めに、スマッシュ決めちゃうよ!」
菜摘がいろはの肩を叩いてウィンク。
しかし、いろはの顔は下を向いたままだった。
「ゲームカウントツーオール」
こんなんじゃ駄目。いろはは唇を噛んだ。
先輩たちが卒業して、私たちが一番上になって。私は、部長を任命された。
新しい一年生も入ってきてくれた。私が弱いままじゃいけないんだ。
前の部長がそうであったように、私は強くみんなを引っ張っていかなきゃいけない。
「っ」
対角線に打ったボールは、すぐ瀬戸に追いつかれる。
相手が左右上下に振り回すというなら、私だって。
しかし、反対方向に打ったボールに反応したのは、前衛の上杉だった。
「やばっ」
少し下がった菜摘が上杉のボレーをカバーする。
流れが、再び相手に向いてしまった。
打ち返したボールは反対方向に返ってくる。
「っ、ごめんいろは届かない!」
菜摘の伸ばしたラケットすれすれにボールが飛ぶ。
届くか? いや、届く。届かなきゃいけない。
私は、部長なんだ。
責任感が、いろはの足を突き動かす。
伸ばしたラケットが、ボールを捉えた。




