___エンジン___
市と菜摘の鬼ごっこがひと段落し、両校が一列に並んで向かい合う。
「それでは、陽ノ朱高校と須川高校の練習試合を始めます。須川高校の皆さん、今日は来ていただきありがとうございます」
一成が丁寧に挨拶をする。
「コートは二面、ファイブゲームで行います。審判は手の空いている人がやってください。…今日はよろしくお願いします。実りのある練習試合にしましょう」
はい! と両校からの返事。
一成は終わって、「うおお緊張した…」と胸を押さえた。
「んじゃ、早速やろっか。ウチらはアップ済ませてあるし、あちらさんも済んでるみたいだしね。一コートには瀬戸上杉ペアが入って。二コートには一条清水ペア。奇数番手は一コート、偶数番手は二コートに、番手順に入ってもらいます」
市がちらりとこちらを見て、テキパキ指示を出す。
対して一成は、バインダーをぱたんと閉じ、面子を見回してにっと笑った。
「うちはペア数少ないし、今日は自分の欠点を見つける事に集中しよう。だから、コートは固定しない。好きなコートで好きなようにやればいい」
「はい!」
「うん!」
元気良く返事をし、相里桜井ペアが一コートに入る。
「汐ちゃん、マロン、先に入らせて貰うね」
「先輩の勇姿、よく見ておいてね!」
ちょんと一年ズの額を突き、二コートに入る木暮双子ペア。
「川守、栗野。審判お願いしていいか」
「はい!」
「わかりました」
川守栗野ペアは、一成の指示で二コートの審判に入った。
「…さて、頑張れよ、みんな」
☆ ☆ ☆
「久し振り、相里さん」
「うん、久し振り。瀬戸さん」
前衛がじゃんけんをし、トスをしている間。
相手の後衛、瀬戸華子がいろはを見てにこりと笑った。
いろはもにこりと笑ってそれに答える。
「…練習試合とは言え、負けないからね」
「こっちだって」
バチバチと火花が散っている…ような気がする。
二人の前衛は、ネットを挟んで苦笑した。
「じゃあ、表」
「裏お願いします」
じゃんけんに負けた菜摘が表、相手の上杉葵が裏。くるりとラケットを回す。
からんと地面に倒れたラケットは、裏面を上に向けていた。
「サービスで」
「コートこちらで、レシーブで」
須川高校がサービス、陽ノ朱高校がレシーブとなった。
双方がお願いしますと頭を下げ、乱打をするためにバックラインまで下がる。
「お願いします」
「お願いします!」
ぱこんとボールを打つ。
相手がそれを打ち返す。こちらがまた打ち返す。
ぱこんぱこんとボールが行き交う。
二分程して、「レディお願いします」と声が掛かった。
「ファイブゲームマッチ、プレイ!」
審判の声に、瀬戸がサーブをする。
振り降ろされたラケットから打ち出されるサーブの威力はとんでもない。
いろははそれを、ストレート方向にロブで返した。
瀬戸もストレートに返す。
三回程打ち返しただろうか。その時、菜摘が動いた。
パンッと軽快な音を立てて、上杉の足元にボレーが決まる。
「よし!」
「ありがとう菜摘!」
いろはが走って行って、ぱちんとハイタッチ。
瀬戸上杉ペアは、そんな二人を見て二人揃って深呼吸。
「…よし。エンジン掛けていこう」




