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青の月  作者: よろず
本編
8/38

部屋のドアが小さくノックされて、暫く待ってからドアを開けて誰かが入って来る。

その誰かと一緒に、味噌汁の良い匂いも部屋へ滑り込む。

起きてと揺するこの温かい手は…そうだ…


「かあ、さん…?」


目を開けた途端涙が溢れた。

涙で滲んだ先にあった顔は、懐かしい母のものではなくて…泣きそうに顔を歪めた、リィンだった。

唐突にぎゅっと抱きしめられて、決壊する。


もう、みんな、いない。


ずっと、目の前にチラついていても、受け入れられなかった現実がのしかかってきて、小さな温もりにしがみつきながら、歯を食いしばって、泣いた。


どのくらいそうしていたのか、あったかい手が何度も頭を撫でてくれている。そうされているのが心地よくて、泣き疲れてぼんやりした頭で考えた。

こんなに泣いたのはいつ以来だろうか?

葬式で泣いたのかすら、思い出せない。

グズグズ鼻を啜りながら、横たえたままだった体を起こし、名残り惜しい温もりから離れた。


「………ごめん…」


呟いた奏に、リィンは首を横に振る。

再び腕の中に閉じ込められたら胸がきゅうっと痛んで、泣き過ぎのせいだろうかと奏は思った。



顔を洗ってリビングに行くと、一人の時は使わないダイニングテーブルに朝食が並んでいた。

低血圧かと真人にからかわれて、遅くなったことを謝る。

目が腫れぼったい気がして、顔は上げられなかった。


朝食の後は、昨夜残したバーベキューの片付けをみんなでやった。

残った食材は持って帰ってもらうことにする。この家にあっても、奏は腐らせてしまうから。

箱買いしたビールは結局半分以上残っていて、また泊まりにくるから冷やしておけと真人に言われ頷いた。


「んじゃ、また来るよー」


ひらひら真人が手を振って、それぞれ挨拶して車に乗り込んだ。

玄関先で車が見えなくなるまで見送り、奏は家の中に戻る。

ふと書斎のドアが目に入って、少し迷ってから、鍵を開けて中に入った。

本棚に紛れるように設置されている仏壇の扉を開いて、線香に火を付ける。

仏壇の写真を一つ一つ眺めてから、その前に膝を抱えて座り込んだ。

父と母と妹。

写真の中の家族の姿は、もうずっと変わらない。十歳のままの妹が写真の中で笑っている。

自分だけを置いて行ってしまった、家族。

奏の唯一だった、大切な存在。

もう会えない彼等を思って、気の済むまで、泣くことにした。

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