二十
バスケットゴールにスパッと気持ち良い音を立て、ボールが吸い込まれていく。
「おー、すごーい。」
美里が呟くと、それを聞いた横溝くんが得意気に笑った。
奏は今、横溝くんが言っていたスポーツ施設にやって来ている。
昼休みにリィンと美里に話したら、早速行きたいという話になったのだ。
着替えて入場し、まずは空いていたバスケットコートで、バスケ部三人組のお手並み拝見となった。
「おー!」
横溝くんの後ろでは、新田くんがダンクシュートを決める。
瀬田くんと横溝くんは出来ないらしく、悔しそうだ。
「奏!私もあれやりたい!」
「細川さん、俺らよりちっさいから無理じゃね?」
瀬田くんの言葉に、リィンは授業の時に考えた秘策があるのだと胸を張る。
どうやらその秘策は一人では出来ないらしく、奏が手伝うことになった。
コートの下で両手の指を組んで立つ。
バレーのアンダーレシーブのような姿勢になり、タイミングを図って押し上げれば良いらしい。
「いっくぞ〜!」
ドリブルをしながらリィンが走ってくる。
右足が掌にのせられ、奏はリィンを上に飛ばした。
「だーんく、しゅーとー!」
果たしてシュートは綺麗に決まった。
ぶらんぶらんリングにぶら下がってから、リィンは着地する。
「すっげー!」
「マジか!俺もやりてぇ!」
横溝くんは拍手し、瀬田くんが目を輝かせる。
一部始終を見ていたらしき他の客からも拍手喝采を浴びて、リィンは満足そうだ。
「見たか!おっきい人!」
新田くんの前で、リィンは鼻高々に腕を組む。
「おー、すげーすげー。」
新田くんはぐりぐりその頭を撫でた。
にっこり笑った奏が近付いて、リィンを背後から抱き込む。そして、消毒とばかりにリィンの頭を撫でた。
「なんという独占欲…」
「ぽやんとした笑顔じゃない一宮、初めて見た…」
「最近、あの笑顔の奏さんの後ろに黒いオーラが見えるんです…」
ぽかんとした表情で瀬田と横溝が呟き、美里は呆れ顏だ。
新田は笑って謝りながら、奏の頭をぐりぐり撫でている。
そんな二人に挟まれたリィンは、奏の腕の中で顔を赤くして、嬉しそうに笑っていた。
バスケの次は、ニンジャという名前のついた本格的アスレチックにやってきた。
登ったり、跳んだり、ぶら下がったりしてゴールを目指すらしい。
やさしいコース、難しいコースの二種類あり、美里と奏はやさしいコース。バスケ部三人組とリィンは難しいコースに挑戦する事になった。
やさしいコースでも、中々にハードだった。
一本のロープを登ったり、雲梯を渡ったりと結構腕が疲れる。
美里は途中の雲梯で落ちて諦めたようだ。
奏は無事ゴールまで辿り着き、美里と一緒に難しい組を観ることにした。
難しいコースは、やさしいコースの比じゃない程大変そうだ。
やさしいコースと同じように、ロープを登り、雲梯で進む。
その次は、タイミング良く走って斜めになっている足場を渡るのだ。
それを乗り越えた先には、両側の壁に手足で突っ張り、蜘蛛みたいに進むコースがある。瀬田くんと横溝くんはここで落ちた。
さらに最後の難関が、ネズミ返しのように反り返った壁。これを登らなければゴール出来ない。
新田くんはその壁が登れなくて、諦めた。
リィンはというと、身軽にひょいひょい先に進んで行く。自分の身長の二倍程ある最後の壁も、簡単に登ってしまった。
もしかしたらリィンは、壁走りが出来るかもしれない、と奏は想像してみた。今度やってもらおう。
女性でゴール出来る人は中々いないらしく、リィンは歓声の中、景品を手に戻ってきた。
「ますます一宮の言ってた模擬戦、見たくなってきた!」
横溝くんの言葉にリィンが首を傾げ、そういえば話していなかったなと思い出す。
「一宮と休みの日にリアル格ゲーやってんだろ?今度見せてくんね?」
「りあるかくげー?」
瀬田くんの言葉がわからなかったらしいリィンは、更に首を傾げている。
「真人が買ってきた格闘ゲームを格ゲーって言うの。あんたが奏さん相手に庭でやってるやつのことじゃない?」
「ほっほう、あれか!良いよ〜。いつでもいらっしゃいませ〜。」
「…加持さんと、落合さんも見たいんだって。」
「なら二人が来れる時じゃないとね。…でも、あんまり大人数だと場所困らない?」
美里の指摘に、確かにそうだと考える。あんまり大人数で細川家に押し掛けるのは迷惑だ。
「……なら、加持さん達の予定聞いて、僕の家でやる?」
「一宮の家興味ある!」
「なんかオシャレな紅茶とか出てきそうじゃね?」
「あー、なんか上流階級っぽい。」
横溝くん、瀬田くん、新田くんの台詞に、奏は今度紅茶でも買っておこうと考える。
加持達の予定を聞いて、日程を決める事で話は纏まった。
「しかし、細川さんマジにすげぇよな。壁走れそう。」
新田もどうやら、奏と同じ事を思っていたようだ。
「壁走るって…こんな?」
おもむろにリィンは近くの壁に駆け寄り、そのまま縦に壁を駆け上った。ある程度の高さまで行くと壁を蹴り、くるんと宙返りをして着地する。
目を丸くして見ていた三人は、大興奮した。口々にすごいすごいと褒めて、手を叩く。
「サーカスとか入れそうだな。」
新田の呟きを聞いたリィンが首を傾げるので、今度観に行こうと約束をした。
きっとすごく喜ぶだろうな、と想像して、甘酸っぱいような喜びが胸に湧き上がる。
リィンが笑うと、奏は幸せだ。
次回、デートです。




