はじまり
初めての投稿です。よろしくお願いします。
人がぶっ飛ぶ様を、奏は生まれて初めて目にした。
幼い時からよく標的にされていた。高校に入ってからも変わらず標的にされた同級生からのいじめに、今日も変わらず、奏は黙って時が過ぎるのを待っていた。
相手が満足してこの場を去る。それをただ、自分はひたすら耐えて待つ。そんな、いつもと変わらない時間のはずだった。
そこに突然、小柄な少女が乱入してくるまでは。
「美里ちゃん!蹴飛ばしちゃったけど、このお兄さん達は悪いヤツらで間違いない〜?」
突如乱入し、奏を小突き回していた大柄な男を蹴り一つで吹っ飛ばした少女は、連れらしき人物へと声を掛ける。
「間違いなさそうだけど、ぶっ飛んだ人大丈夫?死んでない?」
「ダイジョブだよ、手加減したよ!コロシはダメ!絶対!でしょ〜」
「こういう暴力沙汰も良くはないけどね。」
明るい声音の物騒な会話の間に、奏を囲んでいた男達は少女の拳や足によって撃沈されていた。
なんとも華麗な手際で、一瞬の出来事であった。
「呆気ない…ニホンジン、貧弱過ぎデスヨネ…」
悲しそうな呟きを零した少女は、男達の懐をゴソゴソと探ってから奏に何かを差し出してきた。
その小さな手には、右に財布、左に携帯が、撃沈した男の人数分握られている。
意図がわからず、頭一つ分下にある少女の顔を見つめたまま動けない奏に、彼女は可愛らしく首を傾げた。
「見られたくない画像あればこれ壊して、お金取られたりしてたら取り返せるよ〜?」
どーぞ、と笑顔で両手を差し出す少女に、奏は慌てながら首を横に振る。
「しゃ、写真はとられて、ない…お、お金、は…渡したことあるけど、別に、大丈夫…です。」
「ありゃー、それはいけませんねー、やられたらやり返せ、取られたら取り返せデスよ?」
奏の言葉を受けて左手から携帯を捨てた少女は右手の財布をぐいぐい奏の胸元に押し付ける。
「い…いや、あの……」
押し付けられても、財布を受け取って金を抜き取る気にはなれず、少女になんと声をかけたら良いのかも分からず、奏は混乱する。
そんな奏に焦れたのか、押し付けていた財布を少女は自分で確認し始める。そこに、背後から伸びてきた手が少女の頭を叩いた。
「あいたっ」
「流石にそれはいかんでしょ。犯罪者っぽい。それに取られた本人が良いって言うんだから、もう良いんじゃない?」
「えー、美里ちゃん冷たい〜」
「冷たくて結構。あんただって、別に正義の味方やりたい訳じゃないでしょ?」
「まぁ確かにー」
「じゃ、もう行くよ」
はーい、と返事をしながら少女はあっさり財布をその場に捨てて背を向けた。
奏はその場に立ち尽くして彼女達を見送り、我に返って側に落ちていた自分の鞄を拾い上げて歩き出す。
そして、ふと気付いた。彼女達は、自分と同じ高校の制服を着ていたなと。
もし、学校でまた会えたなら、お礼を言えるだろうかと考えながら、連れ込まれていた路地から出て帰路についた。