第一話
肩まである髪は光の加減で七色に輝く白。
白髪と呼ぶにはあまりに惜しい為か、銀髪と呼ぶ者も少なからずいる。
誰もが敬う顔立ちに雪のように真っ白な肌。
男女問わず振り向く美しさだ。
彼が住む国ではちょっとした有名人である。
しかし今はその面影が全くとは言えないが、ない。
七色に輝くどころか雨に濡れてくすんだ髪。
肌は雨に濡れたまま風に吹かれ、寒さで白を通り越え青白い。
それの上彼が纏っているのは闇のような黒い喪服。
青白い肌がぼうっと浮き上がって見える。
きっと観光客がみたら幽霊にみえるだろう。
場所が場所なのもあるが。
彼の目の前には大樹がある。
その大樹は地上からでは到底頂上まで見えないほどの大きさだ。
雲を突き抜け、未だにすくすくと育っている。
彼が住むリペリアは四方を川と海に囲まれ、水の都と呼ばれている。
それだけではない。
この大樹に神が宿っているということから神の国とも呼ぶ者も少なくはない。
そして大樹に宿る神の元へ逝きたいと考えられ創られたとされる風習があった。
『この国で死んだ者は全て大樹に名を刻む』
その大樹には他国から逃れてきた大悪党から歴代リペリア国王の名まで彫られている。
リペリアで亡命した者は誰これ構わずこの大樹に名が刻まれるのだ。
神さまがいるとしたら、神は許したんだろう。
少しくらい自分の寝床に人間が入ったっていいじゃないか。
懐が深い神さまだ。
「…」
肉体は燃やされ灰となり、大樹の近くに埋め、大樹の栄養となり大樹と永遠にリペリアを見守り続ける。
「育ての親」
生前一度も呼ぶことがなかった親父を、大樹の幹に触れながら呼ぶ。
「…ありがとう」
それ以上の言葉はなかった。
髪についた水滴を散らせながら大樹に背を向け、歩き出した。
否、歩きだそうとした。
立ち止まり、上を見上げる。
天まで伸びる神の大樹。
その葉の数はそこらの木とは桁が違いすぎる。
普通の木なら葉が落ちてくるのは自然だ。
たがこの大樹はそうそう葉は落ちてこない品種か何からしい。
専門家ではないのでよくは知らない。
落ちてきたら上から何かが降ってきた証拠だと、専門家は言っていた気がする。
大抵鳥の死骸が多かったりするらしいが。
自然に葉が落ちてくるということはなかった。
葉が落ちてくるなら鳥の死骸か何かが落ちてくる。
そう考えるのはここでは自然だった。
「…?」
しかし何故立ち止まったのかは自分でさえわからない。
落ちてくるなら落ちてくるでさっさとそこをよけて歩くか、急いでそこを通り過ぎるかしたらいい。
なのに立ち止まった。
立ち止まってしまった。
はらり、葉が落ちてくる。
「……」
耳を澄まし、聞こえる全ての音を拾う。
雨の音。
雨が地面に叩きつけられる音。
「…!!」
葉のジャングルから抜け出してきた音。
「うわっ!!!」
己が地を蹴った音。
そして。
「っぶねぇ……」
…己が地面にスライディングした音。
喪服には当たり前のように土特有の茶色い砂がびっしりとついた。
それにスライディングしたので身体の節々が軋む。
しかしそんなことは今は気にしてられない。
彼はキャッチした物をよく見る為に両手を本を開くように、そぉっと開ける。
「ぴぃっ」
手の中に収まっていたのは鳥だった。
「…」
しかも。
「…真っ白、だな」
自ら発光しているようにも見える白さだった。
まるで己の髪のように。
己の肌のように。
雪のように。
白い。
「ぴぃっぴぃっ」
意外と元気そうなその鳥は両翼をばたつかせ、彼の手から肩へと移動した。
まだまだ見た目は産まれたての雛鳥なのだが、既に飛べている。
「…元気だな」
「ぴいっ」
まさか返事が帰ってくるとは思わなかったため、目を丸くした。
半信半疑でもう一度鳥に問うた。
「…お前、俺の言葉がわかんのか??」
寝そべっていた状態から起き上がり砂を叩き落とす。
「ぴぃ!!」
そしてその手を止めた。
「…ぷっ」
「ぴ?」
急に全ての動作をやめ、黙りだした彼をのぞき込む。
「あっはははははははは!!!」
突然腹を抱えながら笑い出した彼に今度は鳥が驚く。
「賢いなぁ、お前」
未だ笑いながらも指の腹で優しく頭を撫でてやると鳥は気持ちよさそうに目を閉じた。
「なぁ」
身体に生えている羽同様色素がかなり薄い瞳をこちらに向けた。
「うちに来るか?」
何故か考えもせずそう言い放っていた。
「ぴぃっ!!ぴぃっ!!」
返事をするように肩から飛び出しくるくると彼の周りを飛ぶ。
「…そっか」
大樹にもう一度触れる。
「なぁ、親父」
未だに"親父"と呼ぶのは恥ずかしい。
しかし伝えなければならない。
「ぴぃ」
この真っ白い鳥の存在を。
「…帰るか」
頭にはあの真っ白い鳥が乗っているが先程より軽く感じる。
「…あ」
外が大雨なのをすっかり忘れていた。
「おい」
「ぴ?」
髪の毛で遊び始めていたそいつはちゃんと返事した。
「雨に濡れるから走るぞ」
「ぴぃ!!」
走り出せばいくらか砂埃や泥が散る。
既に雨に濡れてるわ砂ついたわ泥がズボンの裾に散ってるわできっと近所中に怒られるだろう。
それでもいい、と彼は心の中で笑った。
雨が降る。
雨が降る。
19年前のように。
神がまるで泣いているように。
一週間降り続けた。
神さまは泣いている。
彼が不幸になることが悲しい。
でも神さまは何もできない。
造ること。
壊すこと。
呪うこと。
それしかできないから。
だから泣く。
神さまが人間の為に泣く。
どうも、はじめまして。
創作小説を初めて書く鯨です。
たかだか高校生が書いている小説ですので、温かい目で読んでいただけると幸いです。
しかし高校生だから、と言っても公の場に小説を投稿するわけですからそれ相応の覚悟は出来ているつもりです。
不備等ありましたら今後作品に生かせると思いますのでお知らせして頂けると嬉しい限りです。
まだ一話目ですが今後『神さまを泣かせた』をよろしくおねがいします。
※2015.3.19 無駄な余白を消しました。