それ、大問題です。お気づきですか?
久々にものすごく短い話を書こうと思ってネームレス。
人物像も具体的なことは書いてません。
注意。不妊疑惑の内容あります。
「お前を愛するつもりはない。私には恋人たちが居るからな」
婚約期間ゼロで結婚した夫に、結婚式を終えたばかりの教会で言い放たれました。で、あっという間に消え去りました。政略結婚ですから愛なんて不要。そう言い返せなかったのは、悔しい。
チラリと司祭様を見るとお怒りのご様子。
まぁそうですよね。
我が国一夫一妻制。
貴族は後継の関係で夫婦の間に子が出来なかった場合のみ、男女問わず、後継者は妾が囲える。それなのに、神に誓ったその直後に恋人たちが居る発言ですから。そして居なくなったし。司祭様怒りますよね。神への誓いを冒涜したと思ってますね、きっと。
「夫人。離縁なさるのであれば、私が許可をしましょう」
お怒りの司祭様に、離縁を勧められました。ありがとうございます。貴族の結婚なので国王陛下が認めた結婚なんですが、教会は王族と距離を置いた中立の位置にありますからね。国王陛下に意見出来ますし、独断で離縁も出来ます。取り敢えず、司祭様が味方になってくれることは良しとして。離縁するかしないかよりも、大切なことを話し合いましょう。
「司祭様、図々しいお願いで大変恐縮ですが、両親たちと話し合いをしたいので、立ち会っていただけますでしょうか」
快諾いただきました。神々しい笑み付きで。
結婚式終わった途端、夫は消えましたが、両親ズは驚いてないので夫の事情を両親ズは知っている、と。そんな気はしてました。
司祭様、両親ズが驚いてないことにもお怒りの様子ですが、そこはちょっと置いといて。
「見ての通り夫となる人は居なくなりましたが。あの方、恋人たち、と複数居ることを示唆してました。そこもご存知ですか?」
両親ズはそれにも何も言わないので知ってた、と。まぁそこも別にどうでもいいんです。問題はそこじゃない。
司祭様は、かなりお怒りで教会と神をなんだと思っているんですか、と静かにブチ切れてます。両親ズはさすがに教会側と事を構えるのは拙いと思ったのか、肩を竦めてますが、司祭様にもちょっと落ち着いてもらいまして。
「ということは、大問題ですが、お気づきですか? 言っておきますが、愛がどうのこうのではなく、恋人がいることがどうのこうのでも無いですよ? そんなの大問題じゃないです。現実的な問題です」
私の問いに両親ズは、不思議そうに首を傾げる。
私は愛とかどうでもいいし、この結婚にそこは求めてません。私の両親、それぞれ愛人いるから貴族なんて愛人がいて当たり前だと思ってるし。貴族の結婚だから愛なんて無いと思うタイプだし。だからそこは別にどうでもいいんです。それよりも。
「えっ、本当に誰も気づいてないんですか? 夫の発言では、恋人が複数。それも昨日今日の関係じゃない言い方。ということはそれなりに長い関係では?」
私の疑問に夫の母が答える。
「恋人は三人よ。一人は三年半。一人は一年半でもう一人は一年」
「やっぱり大問題。恋人が何人居ようとどうでもいいけどこの結婚はなぜ決まったのか思い出して下さい」
「この結婚は、政略結婚。国王陛下お声がかりで商人の我が家が隣国から避妊薬を輸入し、この国に望まぬ妊娠をする女性が一人でも少なくなるように、と。ただ我が家は下位貴族。上位貴族の後押しも必要だからとこの結婚が整ったわけだ」
私が言えば私の父が説明する。そこまで言っていてなぜ気づかないのですか。
「ですから、どうして揃いも揃って気づかないんですか! 思考能力ゼロですか! それだけ長く恋人との関係が続いているのであれば、我が国にはまだ避妊薬は流通してないんです! 子どもが居ておかしくないでしょう!」
司祭様も両親ズもハッとした顔。いや、なんで全員気づかない? 思考停止なの? その可能性を考えて無かったとか意味分かんないのですが?
「子どもが居るのかどうか知りませんが、可能性大。でも、夫の子どもでも、私の子として届け出られませんよ! 私との結婚以前に子どもが居るのは、一夫一妻制の我が国なんですからスキャンダル塗れじゃないですか! 社交界では、夫婦の間に子が出来てから愛人を持つというのが暗黙の了解。夫婦の間に子が出来ないなら妾を囲える。仮に夫に結婚前から恋人が居ることを社交界で許されていたとしても、結婚前に子が出来るのは、後継争いの火種になるから社交界でも受け入れ難いことですよね? だって、その火種が飛び火してどう巻き込まれるか分からないのですから! どうして誰もそこに気づかないんですか!」
両親ズがその可能性に全く気づかなかったのか、呆然としている。いや、気づけよ。
「誰が子を産んでいようと、妻がいない以上夫の子には出来ません。法で認められない。生まれたら教会へ戸籍登録するのは貴族も平民も絶対。でも今までは妻が居なかった夫の子として認められない。結婚より先に生まれてるから。絶対揉めますよ! 私と白い結婚するなら余計です。私が子を産めば間違いなくその子が後継ですが、その可能性ゼロの現状、私との結婚後に生まれた恋人たちの子を引き取れば、他の子はどうするんだ、と揉めるでしょう! 他の子たちを養子にするにしても手続きが面倒ですよ。夫の実子でも養子として迎えるとか! なんで誰もそこを確認しないんですか!」
私の正論に両親ズは項垂れる。いや、項垂れるだけじゃ済まんのよ! 問題解決しないんだが!
ややして、夫の母がハッと思い出したように顔を上げた。
「待ってちょうだい! あの子と恋人たちの間には子が出来た、と報告は一切無いわ! だから後継問題にはならない!」
夫の母の発言に、司祭様を含め皆が一安心と息を吐き出す。ん? いやいや、ちょっと待って。私もうっかり安心しちゃったけど、それはそれで大問題!
「いやいや、うっかり私も安心しましたが、それはそれで大問題ですよね?」
今度はなに? と両親ズと司祭様が私を見る。
だから、気づいてよ。
「我が国には避妊薬は流通してません! 流通させるために我が家は上位貴族であるそちらとの縁を繋いだわけですよね。つまり、長い期間、三人の恋人たちと関係があるにも関わらず、誰とも子どもが居ないということは、三人の恋人全員か或いは夫本人に、生殖能力がゼロという可能性が出て来ましたよね?」
その場の空気が沈黙というより凍り付いた。
いやでも、そういうことでしょうに。
そしてどうして本当に気づかないの。
思考能力ゼロか!
「そんなまさか。息子に生殖能力が無い、とか」
夫の母がショックを受けているが、可能性大でしょうに。貴族だろうと平民だろうとこの際女性の身分は関係ない。女性三人が三人共、生殖能力が無いとは思いにくい。可能性はゼロではないけれど。
「というか、恋人って女性なんですよね? 男性だと子は出来ませんが」
私は抑々、恋人三人が女性であるか男性であるかも知らないので夫の母に尋ねた。
「女性よ、三人共!」
何を言い出すの! と言わんばかりだけど、ただの確認です。
「でしたら、女性三人全員に、生殖能力が無い可能性もありますけど、夫自身に生殖能力が無い可能性の方がずっと高いですよね。やっぱり。となると、この結婚、意味無いですよね? 私と白い結婚ということはこの際どうでもいいですが、貴族は血を繋ぐことも大切ですし。そちらの家がご親戚から養子を取るのか、全然関係ないところから養子を取って夫の子としての対面を保つのでしたら、この結婚は続行しますが、どうしますか?」
夫の両親は、その決断は出来ないので、夫と話し合うから待って欲しいと言ったが。
「それはダメです。神への誓いを冒涜したあなた方のご子息とこちらの女性との結婚は離縁とします」
司祭様、我に返ったように仰いました。あ、後継問題で驚きまくってましたけど、それはそれとして、結婚式を疎かにしたことはお怒りなのは変わらないのですね。
司祭様は国王陛下にも伝えます、と仰いましたね。
「まぁ夫に生殖能力が無さそうな時点で、この結婚続行するのはかなり厳しそうですけど。なんかプライド高そうでしたからね。自分に生殖能力が無いなんて思いたくないでしょうから、かなり荒れそうですもんね。それをそちらが説得し納得させてくれないと私も嫌ですから」
夫の両親は、自分の息子がそんな性格だということをきちんと理解しているようで説得は難しい、と溢しまして、結局、結婚式を終えて数時間で離縁を受け入れ、離縁が決まりました。私の両親ももう何も言わないですしね。
私たちの結婚式は急遽でしたから、招待客は無し。両親のみ。多くの貴族は知らないので、離縁しても社交界で噂にならないでしょう。陛下も教会側と事を構えたくないでしょうから受け入れるでしょうし。
あくまでも生殖能力に疑惑があるだけですが、その疑いが出た、ということだけで、きっと夫の未来は明るくなさそうですから、まぁ離縁で良かったのかもしれません。
私の今後は当初の予定通りです。我が家は兄が跡取りで結婚して子どももいて安泰ですし、姉も良いところへ嫁入りし跡取りを産んで姉の地位は盤石です。上位貴族ではないけれど、実家の後ろ盾にはなれそうな家柄です。ということで、私は結婚しなくていいと当初は言われてましたから、侍女試験に合格して王城で侍女として働き出していたのですが、父が陛下に請われて隣国から避妊薬を入手。流通させるための後押しとして、急遽今回の結婚が決まったんですよね。結婚しても王城の侍女として勤めて良いのなら、という条件で了承しましたが、司祭様が仰った以上。離縁は決定でしょうから、侍女に戻ることにします。
また別の上位貴族との結婚話が出たときは、そのときに考えましょう。
(了)
お読みいただきまして、ありがとうございました。
結婚式場の教会内で全て終了です。
でも思ってた以上に文字数が削れなかった……。




