第2話 「悪役令嬢、忠誠の騎士と出会う」
夜の城は静寂に包まれていた――と思いきや、微かな魔力のざわめきが廊下を駆け抜ける。セレスティア・フォン・アルステッドは、聖剣と魔導剣を携え、冷静に闇を見据えていた。
「魔王の手先……ですが、わたくしにかかれば雑魚も同然ですわ」
暗がりから、黒い影が四体飛び出した。爪のような魔力を纏った怪物。これが前世のゲームには存在しなかった“真の魔王の手先”――。
「ふふっ、構いませんわ。まずは腕試しですの」
セレスティアは軽やかに飛び上がり、魔導剣を一閃。青い光が夜の廊下を裂き、怪物たちを次々と薙ぎ払った。
「なっ……悪役令嬢が……!」
怪物を見守っていた衛兵の一人が声を上げる。驚きと畏怖が混ざった視線。そのまま仲間たちは逃げ惑った。
「これが……わたくしの力ですわ。お覚悟なさい!」
戦いの最中、セレスティアは不意に、忠実そうな一人の騎士の視線を感じた。黒髪で整った顔立ち、鍛え抜かれた鎧――そして目には決意と敬意が宿る。
「わたくし、セレスティア様……!」
騎士は一歩前に出た。声は震えていたが、力強さも感じられる。
「……あなたが、わたくしに従うおつもりですの?」
セレスティアは微笑み、剣を鞘に納める。戦場で見せる冷徹な美しさと、侯爵令嬢としての気品が混ざり、騎士は息を呑んだ。
「はい……この方こそ、わたくしが信じるべき真の姫騎士です」
その瞬間、セレスティアは確信する。攻略対象たちが振り回されるヒロインではなく、わたくしこそが物語の中心なのだ。
「ふふっ、では、これからは一緒に進みますわ。魔王を討つ旅に」
騎士は深く頭を下げ、正式にセレスティアに従うことを誓った。その背中には、忠誠と信頼が光っていた。
その後、城内での戦いは短時間で終わった。魔王手先の残党は散り、セレスティアは勝利を胸に、夜空を見上げる。
「次は……王子とヒロインたちも、わたくしの旅に巻き込む番ですわね」
戦いの余韻に浸りながら、セレスティアは微笑む。その表情は優雅だが、鋭く光る剣のように凛としていた。
城下町の街路を歩くと、人々の視線が集まる。かつて悪役と噂された令嬢が、今や救世の姫騎士として街に現れたのだ。
「……あの方が、セレスティア様……?」
噂を耳にした貴族や町人の中には、興奮と期待の入り混じった声が上がる。
「さて、これからが本番ですわ」
夜風に髪を揺らし、セレスティアは魔導剣を軽く振るう。次なる戦いは、攻略対象たちとの出会いと協力。そして、魔王との壮絶な戦いへの布石となる。
「魔王討伐も、そして……あなた方の心も、わたくしが奪いますわ!」
侯爵令嬢の笑みは、誰も止められない快進撃の予感に満ちていた。