66.大事なことは
土曜日の夜に、砂映は涼雨に電話をした。
明日少し遠出をして、海の見える展望台に行こう、と砂映は誘ったが、涼雨は断って、近場の――――雷夜の家の丘を下ってすぐの公園でいいんじゃない、と言った。
(なして公園・・・・・・?)
電話を切った後、砂映は唸った。
公園で会う、のは、砂映には何だか不吉な感じがする。
(いやいやいや。高校生の時に涼雨さんにふられた公園とは、別の公園だし)
遠くまで出かけるのはちょっとしんどい、近くがいい、天気よさそうだから公園、と涼雨は言った。
涼雨の希望をむげにはできない。
(まあ、公園の後で近所の喫茶店に行く、とか。でも喫茶店でってのもなあ。レストラン。よさげなレストランを予約・・・・・・?けど明日仕事だし早めに帰りたいって言われたら・・・・・・。いっそ、うち・・・・・・けど、こんな狭苦しいとこで?それとも今日はやめて別の日に?だけど早く伝えたいし・・・・・・)
いかにもな箱に納められている、魔道士雷夜に加護をかけてもらった婚約指輪。
次に会う時に絶対に渡すんだ、と砂映は心に決めていた。どれだけ愛を伝えても些細なことで心揺らす涼雨の不安を少しでもやわらげるにはこれしかない。一刻も早く渡したい。
(けど・・・・・・もしもまた、俺に見えてないものがあるとしたら)
正直なところ、砂映はとても怖かった。
高校卒業直前に突然涼雨に別れを告げられたことは、砂映にはトラウマである。
再会した涼雨は、あの時は事情があったのだ、と言ってはいたけれど。
(雷夜もなんか、涼雨さんが受け取ってくれるかどうかは自分にはわからないみたいに言うし・・・・・・)
祝福する、と雷夜は言った。
説明されても正直砂映にはよく理解できなかったのだが、婚約指輪としてかなりハイグレードな魔術を施してもらえたようでもあった。
「涼雨の心の中の砂映の占める割合は尋常じゃない」のなら・・・・・・「涼雨は当然受け取るだろう」と言ってくれてもいいのに。
(いや、尋常じゃなかった・・・・・・って、過去形だったっけ?)
砂映はごろん、と自分のベッドに転がった。
自分の部屋の木目の天井をしばらく見つめる。
公園、というのは、やはり不吉な感じがする。
でも。
(プロポーズの目的は・・・・・・別にいい返事をもらうことじゃない)
砂映はそう、思い至る。
そうだ。目的を、間違えるな。
プロポーズの目的は、自分がどれだけ涼雨のことを愛しているのか伝えることだ。
どれだけ大切に思っているか。
一生、全身全魔精をかけて、たった一人、守りたいと思っている。
そのことを、伝えることだ。
それが目的だったはずだ。
(別にいい返事をもらえなくても。それで俺の心が砕けても。そんなことより大事なのは、涼雨さんなんだから。俺はただ、涼雨さんに俺の正直な想いを伝えればいいんだ)
そう考えると、不思議と気持が楽になった。
ただ、まっすぐに涼雨を愛して、その幸せを願えばいいのだ。
それなら、できる。
簡単なことだ。




