65.「感謝してる」
涼雨が目を覚ました次の日は土曜日だった。涼雨は日曜まで入院した。日曜日の夕方に退院をして、次の日からは仕事にも復帰した。
砂映からは毎日何らかの連絡が来た。電話か、テキストメッセージ。調子を気遣ってくれたり、たわいないやりとりをしたり。
(誤解だったのかな。これまでどおり、私は砂映くんの彼女でいていいのかな)
そんな風に思い始めながら、けれども涼雨は、例えば砂映が『三聖獣の魔女』を読んだのかどうか、訊けずにいた。
(魔物を抱えているこんな女が怖くないの?気持悪くないの?本当に?)
退院して次の土曜日の夜、経過観察のために涼雨は魔道士の元を訪れた。
淡々と術の状態を確認している魔道士雷夜に、涼雨は言った。
「・・・・・・私、あなたにとても感謝してる」
「なんだ急に」
「だけどあなたのこと、好きでもなんでもない。それにあなたも、別に私のことを好きなわけじゃないと思う。だから、だから・・・・・・よかったなあ、って思う。すごく楽だもの」
「そうか」
「たぶん私、人を好きになるの向いてない。好きになられるのも向いてない。人のこと、信じられないから。いつまで好きでいてもらえるんだろう、って怖くてたまらない」
「・・・・・・そうか」
「不安ばっかりだなあって思う。生きてると、不安ばっかり。しんどい。でも、死ねない。あなたが死なせてくれない。だからあなたに八つ当たりするしかない」
「俺でよければいくらでも八つ当たりしてくれ」
「ひどい話よね。これでもあなたに悪いなって思ってるわよ」
「別に気にする必要はない」
「あなたって、どうかしてると思う。私が言うのもどうかしてるけど」
涼雨は言った。
魔道士は、淡々と術の状態のチェックを続けていた。




