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63.砂映の相談 雷夜の回答

 その日の夜、魔道士雷夜(らいや)の家に行った砂映さえいは、指輪について魔道士に相談をした。

 涼雨りょううに婚約指輪を贈りたいのだ、と。


 婚約指輪や結婚指輪は、単なる装飾品ではなく、多かれ少なかれ加護や絆のような魔術のかかった「魔法具」を用いるのが一般的である。普通の宝石店でも、目的を告げればそのような魔術的な加工をしてもらえる。護符や魔法アクセサリーなどを専門で扱っている魔法宝石店で買う、という手もある。だが、涼雨の場合、特殊な魔精体質であるうえにさまざまな術を常時施されている状態が基本らしいから、干渉等で悪影響が出ないよう配慮が必要だろう。既製品では難しいにちがいない。そうでなかったとしても・・・・・・せっかくなのだから、一流の術者である魔道士に、何より大切な指輪の作製を頼みたい。


 ――――涼雨は「自分の」です、と、魔道士雷夜に宣言したい。

 その気持がまったくない、というわけでもなかった。もちろん魔道士だけではなく、世間、あらゆる他人に対して「涼雨は自分のです」と言いたい。


「・・・・・・いつも頼んでる宝石業者のオーダーカタログがあるから、選んでくれ」

 砂映が指輪のことを告げると、魔道士雷夜はこともなげにそう言って、カタログを差し出した。


 好きなデザインを選んで希望の材質や石と組み合わせることのできる、オーダーメイドである。

 載っている写真はどれもハイセンスで品がよく、こういったものに詳しくない砂映から見ても上質、という感じがした。わざわざ最上級魔術使いの魔道士に特注するレベルの顧客が相手なのだから当然なのだが・・・・・・思ったよりも、かなり高い。


「あの・・・・・・ここに載っている価格に、プラス魔道士の術の料金ってことになりますよね」


「ん?ああ、二人とも知り合いだし、祝い代わりということでそれはいらない。材料の指輪の価格分さえもらえれば」


「いやそれは!それはよくない!むしろ困る!絶対払うんで。意地でも払うんで。ただ、その、ちょっと分割払いをお願いするかもしれんですが・・・・・・」


「それはかまわないが」


「けど・・・・・・もしも、もしも断られたら。いらんって言われたら。・・・・・・どうしよう・・・・・・」


「その場合は買い取りしてやってもいいが」


「いえ金のことではなくて。そうではなくて。そうではなくて・・・・・・」


 涼雨も自分を好きでいてくれている、はずではある。


 でも、いきなり結婚、と言われたら、「そんな気持はない」と言われるかもしれない。 


 もちろん、プロポーズしたからと言って、実際にすぐ結婚するのか、同居するのか、とりあえず生活スタイルは今の状態を継続するのか、それは相談して、涼雨の意向を聞いてから決めることであり、何かを強制するつもりはない。砂映が自分の気持をはっきり表明しておきたい、それが目的の大半である。

 けれども。


(もしかしたら、昨日の俺の姿を見て、幻滅してるかもしれないし・・・・・・)


 涼雨を殺そうとした魔術師紅に対して、砂映はあまりにも無力だった。

 もっと強い・・・・・・涼雨を守れるだけの力を持った男でなければ、傍にいるべきではないかもしれない。そういう相手と共に生きていきたいと、涼雨は思っているかもしれない。


 涼雨の気持は、涼雨にしかわからない。

 あまりにも勢いで決意してしまったので、砂映はふいに不安に駆られ始めた。


「どう思う?どう思います?雷夜さん」

「・・・・・・どういう質問だ?」

「涼雨さん、受け取ってくれると思います?指輪」


 自分よりも長く深く涼雨と関わっていそうな雷夜に嫉妬しているくせに、弱気になって思わず砂映は雷夜に訊いた。


「・・・・・・」

 雷夜は考え込むように、しばらく黙った。

 ますます不安になった砂映に対し、


「わからん」

 と雷夜は言った。

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