05.華麗なる魔術師 紅
(どうしよう)
その時だった。カランカラン、と店の入り口の鐘が鳴った。
深紅の長いマントを羽織った長身の男がすうっと入って来たかと思うと、呪文の詠唱を続けている三つ編み女の肩に手を置いて言った。
「やめなさい桃花」
深い響きのある、素晴らしくいい声だった。腕の曲げ方も長い指のそれぞれの角度も妙に優雅で、あらゆる瞬間どの方向から見ても美術品のようだった。笑みを浮かべて顔を傾け、長い銀髪がさらりと揺れた。眉尻から鼻筋、頬や唇まで、「美しいとはこういうことだ」と言わんばかりのぞっとするほど整った顔だちで、若い頃はそれこそ、あまりにも人間離れした美貌で人が寄りつかなかったかもしれない。現在の年齢は四十後半から五十前半といったところで、その年季が多少の人間味と、重厚な色気のようなものをその顔に与えている。
「紅様ぁ・・・・・・っ」
桃花と呼ばれた三つ編み女のまわりから、たちどころにエネルギーが霧散した。女の頬は真っ赤になっていて、目は今にも泣き出しそうなほどに潤んでいる。
「迷惑をかけて申し訳ないね君たち。桃花は悪い子ではないのだが、ちょっと思い込みが激しいところがあってね」
「あ、いえ・・・・・・」
発光するような存在感にクラクラしながら、砂映は何とか答えた。すこし離れて立っていた老女がぽん、と手を叩いた。
「そうや!思い出したわあ!『紅様』!孫がこの間見せてくれた動画の人!いやあ、動画も男前さんやったけど、本物はもっと凄いわあ!」
「おそれいります」
「いい声やねえ。歌もよかったわよ。ねえ、サインとかもらえます?」
「もちろんですマダム」
「うちの孫、奈華って言うんです。奈華ちゃんへって書いてもらえます?」
老女はにこにこしながら紙とペンを紅に差し出した。紅は、慣れた様子でサインを書く。砂映は中断していたレジ業務をして老女からお金を受け取り、老女は薬とサインを持って「ありがとうねえ」と店を出て行った。
「ええと、じゃあ私もそろそろ・・・・・・」
弁当を食べ終えた積多が、何となく鼻白みながら立ち上がってそれに続こうとした。が、
「そうはいかないわ」
切りつけるように桃花が言った。
きいん、と空間に何か変化が起こったのを砂映は感じた。積多が驚いたように立ち尽くしている。扉があるはずの場所に、何もない――――空白になっている。
「ま、待ってください。あの、この方は単にうちのお客様で」
砂映は慌てて言ったが、桃花は聞く耳を持たなかった。
「おまえたちからは何人もの『魔女』のにおいがする」
「え」




