46.涼雨(24) 三聖獣の魔女
そのタイトルが目に入った瞬間に、残っていたいくつかの術がまたさらに消し飛んだ。他者に危害を加えかねない、危険なレベルまで封印と拘束が失われた・・・・・・。感覚的に、涼雨はそう認識する。
(人通りもある、こんな、外で)
(魔道士もいないのに)
けれども自分が暴走する危険性への恐怖よりも、涼雨の意識の大半は、砂映が『その本』を持っていた、ということへの絶望に占められていた。
「・・・・・・その本・・・・・・」
「涼雨さん?」
「なんで」
「涼雨さん?」
「砂映くん、なんでその本・・・・・・」
「あ、涼雨さんもこの本知ってるんですか?『三聖獣の魔女』」
砂映がその本のタイトルを口にしたことで、さらにいくつかの術が壊れた。
もはや緩和の術が入る余地は一切失われ、涼雨は全身を締め上げられるような痛みに襲われる。けれども痛みがあるのは、まだありがたいことだ。なぜならそれは、拘束の魔術がまだ残っていて、効力を発揮しているということなのだから。
(お願いだから。お願いだから。もうこれ以上、これ以上は)
心の中で、涼雨はもう、ひたすら祈ることしかできなかった。
魔精感度の高い人間には明らかに「見える」レベルで、魔物の魔精体が現出してしまっている。通りがかった魔術学校の学生が、こちらの姿を見て悲鳴を上げていた。
魔精感度の低い砂映には、幸いなことに何も見えていないようだけど。
(この期に及んで私は)
「涼雨さん。涼雨さん。どうしたんですか涼雨さん」
「読んだ・・・・・・」
「いやまだ読んでないですけど。でも。え?」
(この期に及んで私は、自分のことしか考えてない)
自分の本当の姿を。魔物を抱えた、魔物そのものかもしれない自分を。
砂映に知られたくない、と思っている。
(最低だ、私は)
荒々しいエネルギーのうずまく波が、涼雨を取り巻いていた。
制御を何とか失うまいと、涼雨は飛びそうになる意識を懸命に保って歯を食いしばっていた。
※砂映視点の同シーンは「23.涼雨(1)「再会なんてしなきゃよかった」にあります。




