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45.涼雨(23)「再会なんてしなきゃよかった」

砂映(さえい)くんと、再会なんてしなきゃよかった」

 涼雨(りょうう)は言った。


 言葉を受けた砂映の顔に、とてつもない悲痛の色が差した。

 涼雨には、予想外の反応だった。


(なんで傷ついた顔するの?再会なんてするべきじゃなかったって、砂映くんも思うでしょ?)


 ふいにどろりと大きな塊が胸にせり上がるような気持悪さが来て、涼雨は奥歯を噛みしめて耐える。


(どういうこと?)

 頭がうまく働かない。


 早く一人になるべきだ。少なくとも、砂映から離れるべきだ。今、こんな状態で砂映と向き合うのは無理だ。感情が制御しきれない。封印も拘束もどこまで保つかわからない。


 白魔術医療の従事者として、砂映はどうしても、体調の悪そうな涼雨を放っておきたくはないようだ。

 気遣ってくれるのを、ありがたいと思うべきなのかもしれない。

 けれども優しくされればされるほど、涼雨は悲しくてせつなくて、身が引き裂かれそうな感じがする。


(なんでこんな時にいないの、あの馬鹿魔道士!)

 魔道士雷夜を、今すぐ理不尽に責めたかった。

 あの、何を言っても動じない童顔に思い切り悪態をついて、八つ当たりをしたい。


「砂映くんに会ったらひどくなった。今砂映くんの家なんかに行ったら、もっと悪化する」

 涼雨は言った。それはすべて事実だ。

(私はまだ、あまりにも、あなたのことが好きすぎるから)


 けれどもそれを聞くと、砂映はさらに打ちのめされたみたいな顔をした。

 ただでさえ、気分が悪くてまともな状態じゃない。今の自分に正常な判断力などないことは、涼雨は充分に自覚していた。大好きな人を――――たとえ自分を捨てた人でも――――傷つけたくなんてない。だから、不用意なことを言ってもっと傷つけてしまう前に・・・・・・今はとにかく砂映から離れたい。


「砂映くんいない方がいい。・・・・・・ごめんなさい」

 涼雨は必死で言った。


「今度、ちゃんと話しよう。あの人の方がいいなら、別れるし、安心して」

 懸命に笑みを浮かべて、気遣うつもりでそう伝えた。


 けれども砂映は、涼雨がそう言ったとたん素っ頓狂な声を上げた。

「ちょっと待って何の話!?」


 その砂映の反応に、涼雨もさすがにあれ?と思う。

 どうやら砂映は本気で、何のことかわからないようだ。


(私が何か、勘違いしているのかな。あの女の子とつきあいたいんじゃないのかな)

 けれどもうまく考えられない。

 考えるには、あまりにも気分が悪すぎる。


「・・・・・・今はごめんなさい」それだけを何とか涼雨は言った。


「いやちょっと待って。待って。いやどっちにしろ置いていけるわけ」

 うろたえたように言う砂映を、涼雨は朦朧と眺める。


(なんでそんな・・・・・・そんな一生懸命優しくしようとするんだろう。余計に辛いから、やめてほしい)

 けれどもふと思う。――――もしかしてすべてが自分の勘違いで、自分は捨てられたわけではないのかもしれない。


(そんなわけない)

(なんて未練がましいんだろう)

(期待したら裏切られるよ)

(そしたらもっと傷つくよ)


 だけど、今この場を切り抜けるためには、自分はまだ捨てられてはいないのだと、その希望にすがりついた方がむしろいいのかもしれない。

 今、気持を立て直すことに、都合よく利用さえできたら。

 現金にも、実際そんな希望が湧いただけで、気分が少しましになった気がした。


(この勢いで、とにかく帰るんだ)

「・・・・・・じゃあ、私が移動する。気にしないで」


 めまいを無視して、涼雨は勢いよく立ち上がった。少しよろめいた涼雨を、砂映がとっさに支えてくれる。その大きな手のぬくもりに、否応なく身体が安らぐのを涼雨は感じた。このまま気を失って、何もかもゆだねてしまえたらどんなにいいだろう。実際そうしてしまいたい。


 そんな風に思いかけた刹那、涼雨の視界に「それ」は飛び込んできた。


 涼雨を支えた拍子に、砂映の小脇から道路に落ちた本。

 ――――『三聖獣の魔女』。

※砂映視点の同シーンは「23.涼雨(1)「再会なんてしなきゃよかった」にあります。

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