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41.涼雨(19) 回想⑰ 奇跡

 本当に、騙されてるんじゃないか、と涼雨(りょうう)は思った。

 何度も何度も思った。


 信じられないことだった。昔のように――――いや、昔以上に優しくて、一生懸命に涼雨のことを考えて、気遣ってくれる、涼雨のことを大好きだと言ってくれる砂映(さえい)が――――現実にいる、ということ。

(これは、夢なんじゃないかな)


 施設から出て魔道士の家に入院していた頃、あまりの平穏さにそう思った。

 大学に入って、未来のために勉強をして、アルバイトをして、「普通の人間として」日々を過ごせるようになった時も、そんな風に思った。

 小学校の先生になって、自分のお給料で買物をした帰り道。

 涼雨さんなら大丈夫、なんて上司や同僚に言ってもらえた日の夜。


(こんなに幸せで、いいのかな)

 何度も思った。充分すぎるほど、そう感じていた。

 それなのに、さらにそれを上回るほどの幸せを与えられている。


 ――――今、いいですか涼雨さん。

 新しい仕事に就いて自分が大変なのに、連絡をくれる時にはまずこちらを気遣ってくれる。そのくせちゃっかり甘えたりもしてくる。こちらの声を聴くこととか、こちらの顔を見ることとか、そんなことをどうしてそんなにまでありがたがれるのだろうって思う。無理してないのかな。しんどくないのかな。こちらも心配になる。だけどこちらが心配すると、妙に感動してくれる。何だか結局、こちらが気持ちよくさせられてる。こちらばかりいい思いをさせてもらってる気がする。


(やっぱり騙されてるんじゃないのかな)

 だけど、もし騙されていたとしても、これだけ素敵な思いをさせてもらえたのだから、むしろ感謝しないといけないかもしれない。


(こんな長いこと頑張って、元とれる?)

 魂胆があったとしたって、割にあわないんじゃないかな。


(・・・・・・無防備すぎるし)

 ある日、隣に眠る砂映の姿を見て、ふいに思った。

 こんなに、こんなに幸せなのは、やっぱり怖い。

 奇跡みたいなこんな幸せ、いつまでも続くなんてあるはずない。


「・・・・・・どうして泣いてるんですか涼雨さん」

 いつのまにか目覚めた砂映が、涙を流している涼雨を見てびっくりして、うろたえていた。

(きっといつか終わりが来る)

 それは仕方ない。仕方ないとわかってる。


 でも、あまりにも幸せで、幸せが続くので、もはやそれが当たり前になってしまって、手放せる気がしない。


 自分は弱くなってしまった。信じられないくらい強欲になってしまった。

(失われることに・・・・・・耐えられるんだろうか、私は)

 幸せで、幸せすぎて、いつも不安だった。


(こんな奇跡、続く方がどうかしているのに)


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