39.涼雨(17) 回想⑮ 再会
「どうした」
ある日、訪れた涼雨の様子を見るなり魔道士は訊ねた。
定期検診ではなかった。石電がまた何度目かの不具合を起こしたので、魔道士に直してもらおうと急遽予約を入れて来たのだった。一般の店舗で修理を依頼する場合は替わりの機器を貸し出してもらえるのが通常だが、涼雨の場合、不具合の原因は確実に涼雨の異常な魔精にあり、魔道士雷夜しか調整ができないし、替わりの機器を借りたところでそちらも不具合を起こすのは目に見えていた。一日二日であれば「充電を忘れて」「家に忘れて」で言い訳ができるが、何日も使用不可能となると、さすがに少し問題が出る。それに週末、万が一の業務連絡を受け取れないのが一番怖い。
ということで、合同授業を調整して、何とか時間を確保して朝から魔道士のところにやって来たのだったが。
「・・・・・・さ。さ。さ。さ」
涼雨は真っ白な顔で、口をぱくぱくさせて言った。
「さ?」魔道士は真顔で問い返す。
「さ。さ・・・・・・さえい、くんが。さえいくんが、いた・・・・・・」
「ああ。砂映。砂映に再会したのか」
魔道士が言うと、涼雨は「は!?」と大声を上げた。
「ちょっと、え、なんであなたが知ってるのよ砂映くんのこと」
なぜか非難の口調になった涼雨に、
「昔おまえの心を覗いた時に見た」
涼しい顔で魔道士は答えた。
「・・・・・・どうしよう」
「なんだ会いたくなかったのか」
「そんなことない。すごく嬉しい」
「よかったじゃないか」
「明後日また会うことになった。どうしよう」
「嫌なのか?」
「ううんすごく嬉しい」
「よかったじゃないか」
「全然変わってなかった。というか昔よりかっこよくなってた。なんかこう、深みというか、落ち着きというか、大人というか」
「・・・・・・よかったじゃないか」
「でも。でも。どうしよう」
「とりあえず、壊れた石電を出してもらっていいか」
魔道士に促され、涼雨は慌てて石電を鞄から取り出した。
受け取った魔道士は、軽く状態を確認する。
「ふむ。いつもどおり預かりになるが」
「最初からそのつもり。明後日の土曜の午前中に取りに来ようと思ってるんだけど。大丈夫?」
「ああ。それまでに直しておく。俺はいないかもしれないが」
「えっ」
「仕事が入りそうなんでな。だが前もそういうことはあっただろう。ここに置いておくから、勝手に入って持って帰ってくれ。それとも、ここまで取りに来るのが面倒なら・・・・・・」
「そうじゃなくて。ここに来るのはいいんだけど。・・・・・・土曜日、この近くで砂映くんに会う約束して」
「ならいいじゃないか」
「・・・・・・付いてきて」
「いやそれはおかしいだろう」
「うん。おかしい。ごめん今のは違う。だけど待って。どうしよう」
「悪いがおまえの動揺の意味が俺にはわからない」
「だって。どうしよう。私、もう三十六歳だよ。二十年近く経ってるんだよ。私、他に彼氏できたことないんだよ。高校生の時の彼氏を心の中だけでずっと想い続けてたなんて、どうしよう、そんな人、傍から見たら気持悪いよね。どうしよう」
「そう思うなら、言わなければいいだろう」
「そうだけど。うん。でも。どうしよう。こっちは嘘つくとしても」
「なんだ」
「向こうは結婚してるかも。綺麗な奥さんの話とかされたらどうしよう」
「それは仕方ないだろう」
「大丈夫と思うけど。さすがに大丈夫と思うけど。大丈夫なつもりだけど。でもやっぱりショック受けて、万が一暴走したらって・・・・・・怖い。怖いから、待機しててほしいんだけど」
「悪いがたぶん無理だ」
「・・・・・・やっぱり行かない方がいいかな」
「そう思うならやめておけ」
「だけど後悔しそうだし」
「じゃあ行けばいいだろう」
「う・・・・・・」
「・・・・・・おまえの場合、何がどうなるか本当に読めない。教師の仕事でかなり大変なことが起こっても案外持ち堪えている一方で、個人的なことだと過剰と思えるような反応が出ることがある」
「やめた方がいい・・・・・・?」
「だが・・・・・・今、例えばその、元恋人が結婚しているという仮定をおまえは口にしたが、その想像をしてもさして動揺はしていないだろう」
「うん」
「おまえの場合、仮定や想像でいつも暴走を起こしていたはずだ。考えても大丈夫なら、意外と大丈夫なんじゃないか」
「本当に?」
「まあ、大丈夫とは言い切れないが」
「どっちなのよ・・・・・・」
どうしていいのかわからないまま、涼雨は砂映と約束をした土曜日を迎えた。




