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19.砂映の彼女(8) 卒業後

(俺のこと、覗いてたりしないかな。飛んできてくれないかな)


 それから一年くらいの間、砂映(さえい)はたびたびそんなことを考えていた。魔術学校で、全然ピンとこないながらも必死で基礎を学びながら、涼雨(りょうう)がいかに「例外」であったかも知った。「目」を飛ばすのも別の場所に姿を現わすのも、技術のみならず特別な才能を要する特殊な術であり、使える人間はプロの中でもごく稀だという。その稀な存在の術者ですら、入念な下準備をしなければ発動できない類いのもので、そんなことを「うっかり」行なうなんていうことは、ほぼありえないことらしかった。


(涼雨は特別で、優秀な存在で、俺なんかとは住む世界が違ったのかもしれない)


 魔術学校二年の頃、砂映は同じ講義をとっていた女の子と仲良くなり、告白されてつきあうようになった。涼雨のことはもう忘れるべきだ、と砂映は自分に言い聞かせていた。自分はふられたのだから。いつまでも未練をひきずっていてはいけない。


(覗いてるわけはないし、会いに来てもくれないし)


 そう思っていた。けれどもその時の彼女と外でいい雰囲気になって、目を閉じた彼女に顔を近づけた時に・・・・・・気のせいに違いなかったけれど、ふいに涼雨が見ている気がして、思わず動きを止めてしまった。程なくその彼女とはうまくいかなくなり、別れた。


(どうせ覗いてるはずない)


 むしろムキになるような気持でやや強引に、敢えて屋外でキスに及んだ、のは、魔術資格試験を全落ちして魔術学校を中退し、魔術とはまったく関係のない業界に就職して間もない頃だった。自分の中の青臭い何もかもを振り切りたかった。自分では、その彼女といい関係を築けているつもりだった。けれども数ヶ月で別れた。「砂映くん、私のこと、あんまり好きじゃないでしょう」。振られたのは砂映のはずなのに、なぜか相手はそんな風に言った。


 その後も何人かつきあって、中の一人は二年弱続いた。結婚を考えたりもした。けれどそんな時、なぜか涼雨が頭の中をちらついた。


(十代のガキの頃の恋愛をいまだに引きずっているなんて異常だ)

 そう思った。けれども考えてしまった。


 結婚した後で、もしも涼雨と再会したら、自分はどうするのだろう?


 想像するのが怖ろしかった。そんなことを考えている自分に、結婚の資格なんてない。

(涼雨は、きっと俺のことなんてもうなんとも思ってないのに・・・・・・)

 そもそも自分は当時すでに「嫌い」と言われて振られた身であるのに。


(どうかしてる)

 わかっていた。どう考えても自分はおかしいのだと、わかっていた。


 けれど砂映はその時つきあっていた彼女に、正直に話した。そうして結局別れた。


 その後、「忘れられない彼女がいたって構わない」という子と軽くつきあうことはあった。けれどももう、自分は基本的に独りで生きていくのだろう、と砂映は覚悟を決めていた。その時勤めていた会社に定年までいるだろうことと同じように、当たり前に目の前にある、道。


 ところが定年まで勤める道は崩壊した。その会社が倒産したのだった。

 営業としてそこそこ優秀だった砂映は、それほど悪くない再就職先を紹介されたのだけど、なぜだかその時急に砂映は挑戦をしたくなった。


 自分の中にわだかまっていた執着に、もう一度向き合いたかった。


 砂映は魔術学校に再入学した。

 もしかしたら涼雨の消息がわかるのではないか、という淡い期待もひそかにあった。誰彼構わず訊いて回るようなことはさすがにしなかったけれど、生徒が閲覧可能な情報を検索してみたり、親しくなった先生にさりげなく訊いてみたりした。


 けれど涼雨の情報は、まったく得られなかった。

 そちらについては早々に諦めていた。

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