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11.途季老人の頼みごと

 くれないたちが去った後、いつもよりやや多い来客にてんてこまいで対応し、ようやく閉店に漕ぎ着けて砂映さえいはほっと息をついた。


 考えることは、山ほどあった。


(「少女L」は竜菜りゅうなちゃん?いやでも、竜菜ちゃんが俺と同世代ってことはないだろうし、なんかちょっと、イメージ違う感じするし・・・・・・。まあ、竜菜ちゃんのこと、よく知らないけど・・・・・・)


(でも、それ以外に俺が昨日と今日で会ったか通話かした相手って・・・・・・)


 砂映は石電(せきでん)の通話履歴を念のため確認する。

 履歴にあるのは今朝の雷夜らいやだけだ。


 つきあっている彼女に、昨晩電話をしようかと思ったけれど、時間が遅かったので結局やめたのだった。せめてテキストメッセージを送ろうと思いながら、それさえ送信せずに寝落ちしてしまった。


(思い当たる人がいない・・・・・あとはお客さんとか?)

 常連客ならともかく、たまたま訪れたような人ならば、まったくわからない。


 それに、仮に「強大な魔力を持つ魔女」が誰なのかわかったとして、どうしたらいいのだろう。紅に知られるのはよろしくない感じがする。他の誰か・・・・・・途季ときさんか雷夜に相談、だろうか。


(雷夜が危険な組織を作ってる、っていうのは論外として・・・・・・雷夜が「少女L」を隠匿してるってのはありえるのかな。っていうか、雷夜って結婚してたりするんだろうか・・・・・・あの家で他の人に会ったことないけど・・・・・・家族とか・・・・・子どもとかいたりするんだろうか・・・・・・何も知らないな俺・・・・・・)


 雷夜の家は一見小屋のようだが、おそらくは空間制御や錯覚の魔術がかけられている。魔道士なのだから、金は相当持っているはずだ。豪邸に住まずに敢えてボロ小屋に住んでいる(ように見せている)のは、古の庵住まいの賢者的な魔道士イメージを大切にしているのか、本人の趣味なのか知らないが。砂映が入ったことのある簡素な部屋の奥に、実は結界を隔てて妻子の暮らす広い邸宅が拡がっている可能性だってないわけではない。芝生があって、毛のふさふさした大きな犬がいて、雷夜に向かって「パパー」とか言いながら駆け寄る子どもたちがいたっておかしくはない。


(いやまあ、もしそうなら・・・・・・びびるけど)

 呪文や結界を書きつけた羊皮紙が散乱し、魔物の骨格標本や精霊の剥製がおどろおどろしい雰囲気を醸し出していた雷夜の小屋の様子を砂映は思い浮かべる。犬と妻子のセレブ家族イメージに比べれば、厳重な結界を張り巡らせた隠し部屋に「少女L」を軟禁している方が、遙かに「らしい」感じはしないでもない。


(万が一そうだとしたら、もちろんそれは何か事情があるだろうけど・・・・・・)

 とはいえ失礼な想像であることはまちがいない。

 これでは紅と大差ないではないか。


(はあ。お腹すいたし、昼間食べ損ねたうどんを食べよう・・・・・・)

 砂映は店の奥に行き、ふやけきった冷めたうどんを温め直した。どんぶりを持って表に戻ってくると、カウンターに置いていた石電がぶるぶると鳴りだした。


 店主の途季老人から、電話だった。


 ――――砂映。悪いが明日の朝、ちょっと雷夜のところに行ってやってくれんか。店の方はわしがいるから。


 元々砂映が雷夜と関わるようになったのは、途季老人の紹介があったからである。

 雇用主である途季経由で頼まれごとを伝えられるのは今回がはじめでではないので、砂映は軽く返事をした。


「あ、はい。いいですよ。何か仕事の手伝いとかでしょうか」

 ――――いや、仕事というかな。何か食べ物でも持っていってくれんかな。

「へ?」

 ――――どうもあやつは一人にしておくと、寝食を忘れがちでな・・・・・様子を見てきてほしいんじゃ。

「いいですけど・・・・・・」

 ――――すまんな。一緒に朝食でも食って、店には午後から来てくれたらいいんでな。

「あ、雷夜ってその・・・・・・普段は一人暮らしではないんですか?」


 砂映は訊ねた。他人の私生活について、本人以外にあまり訊くのもどうかと思うが、この流れなら、許されるのではないだろうか。


 ――――ああ。普段は、・・・・・・同居人がおるんじゃがな。今は事情があってな。


 店の窓から、向かいのパン屋SAKIの様子が見える。

 ちょうど帰るところらしく、店を出て通りを歩いて行く竜菜の姿があった。


(同居人)

 途季老人は、なぜ言いよどんで「同居人」と言ったのだろう。

 少しひっかかりながらも、そこを訊くのははばかられた。 


 ――――とにかく、ちょっと心配でな。昔から熱中すると自分の身体のことを忘れるタイプで、誰もおらんと無茶するからなあやつは・・・・・・電話だと平気なふりをするからわからんし・・・・・・

 老人はブツブツと言った。


 途季老人は、雷夜のことを子どもの頃から知っているということだったので、孫のような感覚なのかもしれない。


「わかりました。じゃあ、明日の朝、パンでも持って行ってきます」

 今朝の深澄水みずみみずの件のお礼も言いたい。砂映の家から雷夜の家は店とは別方向だが、せっかくなので向かいのパン屋でパンを買っていくことにしよう。


「あ、ところで・・・・・・」

 店主である途季老人に、今朝の鍵の不具合について伝えておいた方がいいかもしれない。

 深澄水(みずみみず)を普段とは違う材料で、雷夜に教えてもらった別の方法で精製したことも言っておいた方がいいかもしれない。


 と、いうか、今日、紅という魔術師が店に来たこと、砂映と「強大な力を持つ魔女」が接触した痕跡があると言われたこと、魔術師紅が雷夜を危険視していること、全部伝えて、相談すべきかもしれない。


 ――ん、なんじゃ?


 しかしその時、途季老人の電話から、「途季さん、皆さんお待ちなので・・・・・・」という声がうっすらと聞こえた。今日、途季老人は難易度の高い魔法手術の立ち会いに呼ばれて行っている。お礼を兼ねた懇親会か何かあるのかもしれない。かつて高名な魔術医師として名を馳せた途季老人の話を、みんな聞きたがっているにちがいない。


「あ、いえ、大丈夫です」


 相談や報告は、明日すればいいだろう。

 そう砂映は考えて、電話を終えた。


 鍵の不具合も、一応は解消したのだし。それで問題はないだろう、と思った。


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