なんで魔王がパーティーに?
「おい勇者、起きろよ」
ナックルの声がした。幼馴染の戦士だ。
「早く起きてください、勇者様」
今度は僧侶ミザリーの声か。
私は勇者様の婚約者です、とか言いふらす危ない女だ。
「起きないと置いていくぞ」
最後は魔王ペスカトーレの声だ。こいつは魔族の王様で、魔界からやってきて人間界を侵略しようとしていたんだったな。魔法が使えるから、魔法使いの代わりになるな……
「ん?」
目を覚ましたおれは何かがおかしいとあたりを見回した。
その様子を見て3人が目を丸くする。
「どうしたんだ、寝ぼけてるのか」
「もう勇者様はお寝坊なんだから」
「まったくしっかりしろ」
いや、ちょっと待て。
「なんでおまえがいる」
俺は魔王を指さす。魔王はため息をついて言う。
「吾輩の名はおまえではない。ペスカトーレだ。いいかげん覚えろ」
「そうですよ、勇者様。ペペロンチーノじゃないですよ」
「アラビアータでもないぞ」
「もちろんスピナーチョでもない」
「いや、パスタの名前ばっかりじゃねえか!」
「仕方あるまい。吾輩の両親はパスタ好きであったのだ。子供が生まれたら一番好きなパスタの名前をつけようと思っていたそうだぞ。美しい話ではないか」
「美しい話なのかそれは」
いや、そうじゃなくて。
「なんでおまえがここにいるのかって訊いてるんだよ。おまえは魔王だろうが」
「そうだが」
「だから、おまえが魔王でおれが勇者だろ」
「当たり前のことをどうした」
「いやだから、おまえは敵だろうが!」
おれがそう叫ぶと、ナックルとミザリーが信じられないものを見るような目でおれを見た。うわあ……という顔をしている。え? おれ何かまずいこと言った? 何その反応?
「敵……か。そうだな……そうとも言えるな」
魔王は遠い目をして何やらたそがれ始めた。その肩にナックルの手が置かれる。背中にはミザリーの手が。彼らは互いに見つめ合い、何やら頷いている。うんうん、わかるよ……じゃねえんだよ。なんなの、その感じ。何もわかんないのよ、こっちは。置いてけぼりにしないでくれ。
ミザリーがすたすたとおれに近寄ってきて、いきなりおれの頬をはたいた。
バチーン、という音がしておれの視界が揺れる。むお?
「な、何を――」
ミザリーは泣いていた。大きな瞳に涙をためてためて……それがあふれた。
「ひどいです!」
「え?」
「さすがにそれはねえよ、勇者。見損なったぞ」
ナックルもなぜかおれを責めてくる。
「ど……どういうことだ?」
魔王がつかつかと歩み寄ってくる。そしておれの目をのぞきこんで……ふむう、とうなる。
「これは一時的な記憶喪失かもしれんな」
「え?」
「あ、もしかしてアレか? さっきのアレのせいか?」
「そうなんですね……ごめんなさい勇者様、そうとは知らずに……」
「いやちょっと待ってくれ。何の話かさっぱり……」
「やはり忘れてしまっているのか。仕方ない、ここは初めから説明するしかないようだな」
そしてキョトンとしたおれを囲んで、3人が代わる代わる長い回想を語り始めたのだった……