真実は残酷に…!そして元カレとの再会《白鳥香織視点》
結局、離婚の件は今後の慶一の行動次第となり、不妊治療を再開する流れにはなったものの、それに対して、まだ自分の気持ちは追い付いていなかった。
綺羅莉と舞香の態度がおかしい事への不信感もある。
だから、私は慶一に、しばらく不妊治療を再開する事を彼女達には告げないようにお願いした。
「香織さん、けいちゃん、デートいってらっしゃーい。」
「次はうちらそれぞれともデートしてねー?」
私と慶一が不妊治療の病院へ行くのを、関係を改善する為のデートと偽ると、舞香と綺羅莉は、私達を快く送り出してくれた。
一夫多妻制家庭の婚姻は、既存の家庭を崩壊させる事のないように、第一夫人が夫と第二夫人以降の妻との婚姻を同意して初めて成り立つことになっている。
第一夫人と夫が離婚した場合、今までの一夫多妻制家庭の婚姻が一度解消され、第二夫人以降の妻が第一夫人として、新たに一夫多妻制の婚姻手続きをし直し、再び厳しい審査を受けなければならない。
その時点で夫と妻達の合計収入が収入要件を満たしていなければ、一夫多妻制の婚姻は認められない。
人気の企業家として、かなり稼いでいる筈の慶一が、離婚して私の収入が減ったぐらいで収入要件を満たさなくなるって事はないと思うが、まだ子供が小さくほぼ無収入の綺羅莉と舞香にとって、世間の風当たりを含めかなり面倒な事になるのは言うまでもない。
出来るなら、第一夫人の私に離婚を避けて欲しいと思うのが彼女達の本音だろう。だから、慶一と私が関係を改善させるのは、彼女達にとっても良い事で、むしろデートを積極的に後押ししてくれたのだった。
「どうして綺羅莉と舞香に不妊治療の事を秘密にして欲しいんだ?」
「子供がいる彼女達に気遣われると、逆に辛いからしばらくは秘密にしていて?」
不思議そうな顔をする慶一に、私は曖昧な笑顔で誤魔化した。
✽
「お二人共検査は全て終了しましたので、しばらく待合室でお待ち下さい。」
「「はい。」」
新たな病院で、不妊治療を受ける為の様々な検査を私と慶一が受け、待合室のソファで結果を待っていると…。
ブブッ!
慶一のカバンから携帯のバイブ音が響いた。
「あっ。ちょっとごめん…!」
「あ、うん…。」
彼が病院の外へ出て、真剣な顔で携帯に向かって何か話しているのをガラスのドア越しに見遣っていたが、少しして待合室に戻って来た彼は申し訳なさそうな顔で私に頭を下げた。
「香織、ごめん!ちょっと会社の方でトラブルがあってさ、申し訳ないけど結果は俺の分も聞いて置いてくれるかい?」
「ええっ…。」
「本当にごめん!この埋め合わせはするからさ。」
「慶一くん…!」
慶一は、そそくさと身支度をすると、病院を去って行った。
「はぁっ…。」
仕事だから仕方がないのは分かっているけど、私との関係の再構築を申し出て来たばかりなのに、こういう大事な場面を抜ける彼に、思わずため息が出た。
今まで色々理由をつけて避けていた検査を受けてくれただけでも大きな進歩には違いないと思いながらも、
前の病院では、毎回一緒に診察を受け、真剣に不妊治療に取り組んでいる夫婦も少なくなく、その人達を思い浮かべて羨ましくなってしまった。
そして、不意にテレビで微笑んでいた銀髪美少女=財前寺桜と元カレの良二くんの事が思い浮かんで、胸がキリキリと痛んだ。
あの女の子は幸せそうだったな…。
さぞかし大事にされているんだろうな…。
もし…、もしも私が良二くんと結婚していたとしたら、不妊治療にも一緒に真剣に取り組んでくれたのかな?
って、いやいや、私は一体何を考えているの…!
私は慌ててぷるぷると頭を振った時、受付のスタッフさんに声をかけられた。
「白鳥さん、診察室へお入り下さい。」
「は、はいっ。」
✽
「っ……!っ……!ハアッ。ハアッ。」
その後どう病院の会計を済ませたのかも覚えていない。
私は気が付くと、病院を出て、フラフラと通り沿いを歩いていた。
『申し上げにくいのですが、今回の検査で旦那さん、白鳥慶一さんの精子が確認出来ませんでした。』
診察室で、病院の先生が告げられた事が本当の事とは思えなかった。
嘘っ…。嘘でしょっ?
だって、そんな筈…!
綺羅莉ちゃんの桃姫ちゃんと、万里生くんは…?
舞香ちゃんの瑠衣司くんは…?
もし、先生の告げた結果が本当の事として、3人共そうだとしたら…?
慶一が綺羅莉ちゃんと舞香ちゃんを妊娠させてしまって、仕方なく受け入れたこの一夫多妻制家庭は、醜い嘘で根幹から腐っていた事になる。
「ハッ…。ハアッ。ハアッ。」
目眩がして、周りの景色がひしゃげて見える。
私は今どこに立っているの?
誰か助けて!!
ドンッ!
「あっ…。||||」
「…!」
よろけた拍子に、通行人の男性にぶつかり、転びそうになった時…。
「大丈夫ですかっ…?」
ガシッ。
力強い腕が私を抱き止めてくれた。
「す、すみませ…。」
謝りながら顔を上げると、スーツを着た男性が大きく目を見開いた。
「かおっ…、白鳥さん…?」
「良二…くん…?」
瞬間、回っていた視界が急に正常にもどった。
そして、私は彼の顔を食い入るように見詰め、その名を呆然と呟いたのだった…。




