王子の画策
「はい。このように、我が社は、このイベントに対して、コストは最低限、かつ効果は最大限の宣伝を行う事が出来ます。」
「なるほど。㈱スワンさん、なかなか面白い提案ですね。」
「……。」
RJ㈱本社の会議室にてー。
北欧イベントの協賛会社の担当として営業部長と共に打ち合わせに参加していた俺は、同じく協賛会社の担当として、自信満々に仕事内容を説明する白鳥慶一を苦々しい思いで睨み付けた。
「(流石、今話題のスワンの社長。弁が立つねぇ…って石藤くん?どうした?
)」
隣の席の小坂営業部長は俺にこそっと話しかけようとして、その顔の険しさに驚いたらしい。
「(い、いえ…。何でもありません…。)」
俺と白鳥の関係を知らない小坂さんに慌てて首を振り笑顔を浮かべた。
RJ主催の協賛イベントの担当になってすぐに、義父である財前寺龍人さんから呼び出され、頼まれた事があった。
今回のイベントについては新しいスタイルも取り入れていく主旨の下に公募の条件を引き下げた。その結果、白鳥の会社が参入してきている。
同じイベントグループに参加しているさくらをしっかり守ってやって欲しいとの事だった。
今回さくらは参加していないが、次の打ち合わせでは、参加候補になっているAグループの企業や団体が全員集まる事になる。
しっかり彼女の事を守ってやらなければと俺は拳に力を入れた。
「では、今日の打ち合わせはこれで終わりにしたいと思います。
各協賛会社のご担当者様、お忙しい中、お時間を頂きましてありがとうございました。
来週はAグループ全体でプランを共有した打ち合わせをやっていきたいと思いますので、また宜しくお願いします。」
RJ㈱のイベント担当の責任者、村木さんという男性が会議の終わりを告げ、俺と小坂さんは他の周りの協賛会社の担当達と共に、すぐに部屋を出た。
「ふーっ。緊張したなぁっ。石藤くん、俺ちょっとお手洗い行ってくるからっ。」
「あ、はい…。」
俺が廊下で小坂さんのトイレ待ちをしていると、俺が最も警戒していた長身の男に、呼び止められた。
「やぁ…。石藤…だよな?」
「白鳥…。何か用か?俺達仕事が終わってまで話す程の仲じゃないだろ?」
整った顔にニヤニヤ笑いを浮かべて馴れ馴れしく話しかけてくる白鳥慶一に苛立ちを抑え切れず、「失せろ」と目で訴えると、奴は肩を竦めた。
「おお。怖いな。そう睨むなよ。仕事で関わる者同士、コミュニケーションを取ろうと思っただけだよ。
相変わらず、社会人としての常識に欠ける奴だな。
そんな風で、年若い料理研究家の奥さん、財前寺桜さんを守ってやれるのか?」
「余計なお世話だ。お前には関係ない。
お前の口からさくらの名を出すな。汚らわしい…!」
不快感を露わに眉を顰めると、奴は挑戦的な笑みを口元に浮かべた。
「また取られるんじゃないかと心配かい?香織の時のように…。」
「何だとっ…?」
俺が顔色を変えて一歩詰め寄ると、白鳥は、反射的に身を引いた。
「おーい!何をするつもりだ。本当に野蛮だな。君は…!
それに、今、僕は家庭が大変な事になっていて、とても他の女性に手を出すどころではない。
他人の配偶者にちょっかいを出して責められるべき立場にいるのは、君の方だからな!」
「はあっ!?俺がいつ…。」
俺が目を剥くと、白鳥は鋭い目付きで思いもよらない事を伝えて来た。
「昨年の同窓会で、君、香織に未練たらたらで、酔っ払いから彼女を守ろうとしただろう?
君の失言で、つい怒鳴ってしまったものの、後で誤解に気付いて香織は自分を責め、それをきっかけに君への恋情が再燃してしまったらしいんだ。」
「…!かおっ…。白鳥さんが?」
「ああ。おかげで、今、夜も拒まれ、夫婦仲はぎくしゃくするようになってしまった。どうしてくれるんだ…!
香織には今、離婚を考えているとまで言われている。」
「そ、それは、大変な状況だろうが、俺のせいではないだろうっ…!」
少なからず動揺してしまったが、理不尽な物言いに、俺は強く言い返した。
あんだけ人をこっぴどく振って罵った香織が、俺の事を想っているなんて、信じ難いし、香織の離婚したいという意思は本当だとして、他に二人の妻、三人の子がいる環境に加えて、権田さんの情報から、白鳥が身体的不調を伴うトラブルを抱えていたらしい事も知っている。
離婚したくなる理由など山程あるのに、かつて香織を奪われた俺に責任をなすりつけてくるとか、こいつは恥を知らないのか?
「ああ。人の家庭を壊しておいて、君は今、新婚で幸せいっぱいなんだもんな…?
自分の事しか考えていない君なんかにこんな事を言っても仕方がなかったな…。ハッ。」
白鳥は、軽蔑するように大きなため息をついた。
「それならそれで、君は例え香織の方からアプローチがあろうと、決して二人で会ったりするなよ?
もし、一度でもそんな事があったら、僕のプライドは粉々に壊れてしまう…。
これから、同じ仕事をする者だし、それだけはしないと誓ってくれるよな?」
「あ、当たり前だろう。もう、お前達夫婦にこちらから関わりたいなんて思うわけがない。」
縋るような目をする白鳥に、俺は頷きつつ…、内心ではある事が気にかかっていた。
数日前、会社のメールボックスを経由して、差出人不明の手紙をもらっていたのだ。
時間と場所をのみ指定するその怪しい手紙の筆跡は、昔見た香織の字にそっくりだった…。
*あとがき*
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