妻の利用価値 《白鳥慶一視点》
「うんうん。御当地イベントで、新作のお酒を販売するからね〜?PRをお願いしたいんだよね。
スワンさん、そこそこ知名度のありつつ、出演料はここまでのラインの、アイドルとかヨーチューバーさん知ってるぅ?」
「はい。そういう事なら、以前何件か一緒に仕事をした子達に心当たりがあるので、当たってみます。」
僕は自社の会議室で、中堅の食品会社、YASUIの広報部長、疋田実(35)が、持ちかけて来た仕事の話に笑顔で応待していた。
ヘアスタイルをバッチリ固めて、高いスーツを着こなす疋田実は、いかにもエリート社員という風貌だが、時々嫌味で人を小馬鹿にしたような発言をしてくるので、僕は正直苦手だった。
しかし、業績の芳しくない今、規模としても悪くないこの仕事を受けない理由にはいかない。
「まぁ、心当たりがなかったとしても、君には美しい妻がいるからな…。マスコットガールになってもらってもいいかもしれないな…。ハハッ。」
「ハハッ。そ、それはちょっと…。もう妻達は業界を引退していますので…。子供の事もありますし。」
おっと。しかもこの男、人の家庭内の事まで持ち出して、セクハラしてきやがった。
元有名コスプレイヤーの綺羅莉や、元アイドルの舞香の事を言ってるのかとやんわり断ったが…。
「いや、君の第一夫人の香織さんの事だよ。」
「えっ。香織?」
「そう。彼女、この前のパーティーに同伴していただろ?知的美人で、スタイルよくて、あんな嫁がいるなんて、いいよな〜。気強い女って屈伏させてやりたくならない…?」
「は、はぁっ…。」
僕は疋田実がSっ気のある表情で、香織の事を語るのに、おぞましい気持ちになりながら、引き攣った笑みを浮かべた。
「いや、ホント!彼女がセクシーな衣装で、宣伝してくれたら、効果バッチリだと思うんだけど、写真とか動画とかあったら、俺に送ってくんない?」
「いや〜。それもちょっと難しいかと…。」
「ハハッ。冗談!冗談だよー。今時こんな事言うとセクハラとか言われちゃうよな?」
断ると、疋田実は、(恐らく本気で)ギラつかせていた目をふっと和らげ、商談に戻ったが、僕は既に女としては賞味期限切れだと思っていた香織がまだまだ他の奴には魅力ある女性と映っている事に、新鮮な驚きを得た。
そして、去年の同窓会で香織に怒鳴られながらも、まだ未練がましそうな目で見ていた石藤良二を思い出した。
そして、奴には過ぎた妻、天使のような容貌の財前寺桜さんを思い浮かべた。
彼女を手に入れるには、やはり香織が使えそうだ。
子供が出来ず、ヒステリーを増していく面倒な女を妻にしていた甲斐があったよ。最後の最後に役に立ってくれてありがとう、香織!
大丈夫!お前の幸せも考えてある。ちゃんとあの冴えない男と復縁させてやるからな。
お前は、石藤とそこそこの人生を歩み、
僕と財前寺桜さんの華々しい人生を祝福してくれよ?
*あとがき*
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