避けられぬ再会《石藤桜視点❀》
今日は、1週間分ぶりに今田先生のキッチンスタジオに伺い、打ち合わせをしていた。
「来月のお料理教室は、F国のパンケーキにする予定なんだけど、ほら、あの赤い可愛いお砂糖手に入りそうかしら?」
「はい。父が手配出来そうだって言ってました。多分今月中にお届け出来ると思います。」
「よかったわ。さくらちゃんも、忙しいのに、今月は何回も手伝いに来てくれてありがとうね!」
「いえ。本当は毎回行きたいのですが、他のお仕事が入ってなかなか行けずにすみません…。」
料理本がヒットした後、TV出演や雑誌の取材のお仕事が、大量に入るようになり、なかなか今田先生の料理教室の手伝いの仕事に入れず、申し訳ない気持ちになっていると、先生は朗らかな笑顔を浮かべて、首を振った。
「いいのよ。料理本を出版するように言ったのは私なんだから。
他のアシスタントさんもいるから、心配しないでね。
さくらちゃんが、手伝いをしてくれるおかげで、いい宣伝になって、生徒さんも倍増したし、却ってありがたいわ。」
「そう言って下さると有り難いです。」
「仕事が順調なのは、何よりだけれど、新婚の時間は今しかないから、そちらも大事にしてね。
イベントもある事だし、忙しくなり過ぎる前に、さっさと子供を作っちゃうのも手かもしれないわよ。」
「せ、先生〜。///」
先生に茶目っ気のある瞳でそんな事を言われ、私は顔を赤らめた。
「本当よ?これからの女性は仕事も家庭も両方大事にしていくべきだと思うわ。料理に素材選びが大事なように、女の人生にとって男選びは一大事ですからね。
さくらちゃんが、石藤さんのような誠実で素敵な男性を旦那様を迎えて私はとても安心しているの。」
「先生…。私も、良二さんと結婚出来たことが、人生最良の選択で一番の幸福だと思います…。」
先生が良二さんを認めてくれている事を嬉しく思いながら、私は今の幸せをしみじみと噛み締めて大事にしなければと思っていたところ…。
ピンポーン!
「…!」
キッチンスタジオのインターホンが鳴り、先生がその画面を見て、苦々しく笑った。
「あらら…。絶対選んじゃいけなそうな人がまた来ちゃったわ。」
「?…!!」
先生の指差したインターホン画面には、スーツ姿の長身の男性が映っていて、私は目を見張った。
張り付いたような笑顔を浮かべたその男性は、白鳥慶一だった。
「はい。」
「㈱スワンの白鳥ですが、画期的な宣伝のプランをご紹介したいのですが…。」
「また、白鳥さんなの。宣伝なら、別の方法で十分間に合っているから、もう結構ってこの間も言ったわよね?」
「まぁまぁ、そう言わず…。今だけでなく、どんな状況にも対応できる長期的なプランを用意していま…。」
「結構よっ…!しつこい男は嫌われるわよ?」
ガチャッ!
そう言って、白鳥慶一の話の途中で受話器を置くと、先生は心配そうに私を見て来た。
「数日前から彼が頻繁に営業に来るの。多分さくらちゃん狙いだと思うわ。」
「…!!」
✽
その後、窓から様子を覗くと、白鳥は舌打ちをしてキッチンスタジオから去って行った。
打ち合わせが終わり、先生が帰る私を心配して、何かあったらすぐ連絡するようにと言われた。
キッチンスタジオのすぐ前まで車をつけてもらうようにし、権田さんの迎えを待っていると…。
「財前寺桜さん…!」
「…!!」
物陰から、人影が現れ、近付いて来た。
「またお会いしましたね。㈱スワンの白鳥です。
突然、すみません。今田先生には仕事のお話で来ていたのですが、あなたにはプライベートでお話がありまして…。」
「㈱スワンの白鳥さん…ですね?あんまり強引な事をすると、父に言って、今度の協賛イベントから降りてもらう事になりますよ…!」
私はいつでも先生のスタジオに逃げ込めるようにして、後退りをしながら白鳥慶一を睨みつけると、彼は淋しそうに笑った。
「ハハッ。それは困りますね…。そんな強引な事はするつもりはありません。ただ、私は、妻とあなたのご主人の関係について夫として相談したかっただけです。」
「どういう事ですか?」
「私の妻、香織とあなたのご主人はどうやら、不適切な関係にあるようです。」
「?!!」
悲しげな表情で白鳥が放った言葉に、私は大きな衝撃を受けた。
✽あとがき✽
次話、93話〜97話は、時系列的に91話と92話(今回の話)の間の話になります。
分かりにくくてすみませんが、今後もどうかよろしくお願いしますm(_ _)m




