一妻多夫制の揺らぎ&新しい希望
「ああ…。僕は、亜梨花さんに愛想を尽かされ、雅也に失望されてしまったのかもしれない…。
二人に捨てられてしまったら、僕はどうしたらいいんだ…。」
「駿也くん。そんな悪い方に考えるなよ…。」
「そ、そうですよ…。亜梨花さん、明日にはちゃんと話し合うって言ってたじゃないですか。」
リビングの隅で膝を抱えてどんより落ち込んでいる駿也くんに、俺とさくらは宥めるように言葉をかけたが…。
「いや、明日には亜梨花さんと雅也二人で幸せになる事にしたって言われて、ダメダメな僕は追い出されてしまうのかもしれません…。ううっ…。」
「き、きっと、そんな事ありませんよ。あー、ちょうどお昼を用意しているところだったんですけど、駿也さんも一緒に食べましょう?」
「そうしよう!お腹が減ってる時は、余計に暗い方向へ考えてしまうもんだぞ?駿也くん。」
「そんな。気遣って下さるのは嬉しいですけど、僕、こんな時に食欲なんてありませんよっ…!」
グ〜〜ッ!!
駿也はそう言い切るのと腹の虫を盛大に鳴らすのと同時だった。
「あ…。///」
「ハハッ…。」
「あらら…。」
「ハグハグ…。チラッ。ニャーン?」
駿也は顔を赤らめ、俺とさくらは苦笑いを浮かべ、先にご飯を食べていたあんずはこちらを一瞥し、「無理すんなよ?」という風に一鳴きした。
✽
「ご馳走様でした!すっごく美味しかったです✧✧」
「いえいえ。お粗末様でした。気持ちよく食べて下さって嬉しいです。」
その後、出された料理をお代わりまでした駿也は、さっきまで土気色だった顔色が良くなったようだった。
駿也の皿をさくらは笑顔で片付けた。
「良二さん、いつもこんなに美味しいお料理を食べられるなんて幸せですね。」
「ああ。お料理の上手なお嫁さんを持った俺は幸せ者だよ。」
「りょ、良二さんったら…♡///モジモジ…。」
「わっ。さくら。くすぐったいよ…。///」
駿也に正直に答えると、さくらは照れて俺の肩に指先でのの字…でなく♡を書いて来たので、こそばゆさに身を縮めた。
「ハハッ。本当にお二人は仲がいいですね…。
僕も、ステージでいいパフォーマンスが出来た時も、不本意な出来だった時も、
雅也の作ってくれたつまみを肴に、亜梨花さんとお酒を飲んで話を聞いてもらうと、気持ちが落ち着いて、気を引き締めて明日も頑張ろうという気になれていました。
もらうばかりで人に何も与えてあげられない僕は、二人に甘え過ぎていたのかな…。」
寂しそうな笑みを浮かべた駿也に、俺は真剣な顔で首を振った。
「駿也くんが、人に何も与えてあげられないなんてそんな事は絶対にないぞ?
現に俺は事故にあった時に、他ならぬ駿也くんに助けてもらったんだからな。
俺は君にとても感謝している。
西城さんと雅也くんも、駿也くん一緒にいてその優しさに沢山助けられていたんじゃないかな…?」
「そうですよ。良二さんを助けてくれた駿也さんは私にとっても恩人で、感謝しています。
明るくて素直な駿也さんに、亜梨花さん、雅也さんも沢山のものをもらっているんだと思いますよ…?」
「良二さん、さくらさん…。」
駿也は、俺達の言葉にじわっと涙を滲ませた。
「雅也とは、プロのダンサーを目指しながら、ホストをしていた頃からの付き合いなんです。僕はダンサー、雅也は料理人、それぞれ目指すものがある気の合う職場仲間として、仲良くやっていました。
当時新人デザイナーだった亜梨花さんは、時々客として遊びに来てくれるカッコイイ年上のお姉さんで…。
「有名になったら、二人まとめて結婚してあげる!」ってなんて冗談みたいな事を真面目な顔で言っていました。
お客さんへの恋愛はご法度でしたが、亜梨花さんに密かに憧れていた僕達は、「「その時はぜひお願いします!」」なんて冗談半分下心半分に言っていたんですが…。
まさか、本当に実現させるなんて…。
彼女の言葉は全部本気で、実現しようがないような約束でも必ず守る。そういうすごい人なんです…。
それなのに、僕は、「不倫をしない。」「相手が嫌な気持ちになる事はしない。」という亜梨花さんとの約束を破るような事をしてしまいました…。
僕は自分が恥ずかしいです…。」
首を項垂れた駿也の肩をポンと叩いて俺は言った。
「駿也くん。完璧な人はいないよ。間違ってしまったなら、二度としないと反省している気持ちを伝えたらいいんじゃないか?」
「そうですね。明日は亜梨花さんを大事に思っている気持ちもきちんと伝えましょうね?」
「ニャ!」
「ぐすっ…。はい…。はい…。そうですね。良二さん、さくらさん。あんずちゃん…。」
駿也は、涙ぐんで俺達に何度も頷いた。
✽
「ぐー…。すぴー…。」
「ニャニャン…。すぴー…。」
「あらあら。駿也さんとあんずちゃん一緒に寝ちゃいましたね…。」
「疲れていたんだろうな…。」
その後、あんずを抱きかかえたまま、客用の布団の上で寝てしまった駿也を見て、俺とさくらは囁き合った。
「ふふっ…。皆の話を聞いてくれて、駿也さんに添い寝してあげるなんて本当にあんずちゃんは、癒やしのにゃんこちゃんですね。」
「ああ…。あんず、 特に駿也に対しては兄貴分みたいな態度でいるよな…。」
駿也の面倒をみている風のあんずに俺達はちょっとほっこりしてしまった。
「亜梨花さん…。雅也…。」
寝言で二人の名前を呟いている駿也を見遣りながら、俺は西城家のやり取りを思い出し、考え込んでしまった。
「それにしても、いつも仲良しで、緩いような西城家にも、ちゃんとルールはあって、それによって揺らいでしまう事もあるんだな。」
「そりゃ、そうですよ。家庭というのは信頼関係で成り立っているものですもの。それぞれが大事にしているものを蔑ろにしてしまったら、うまく行かなくなってしまいます。」
尤もだというように、ウンウン頷くさくらに俺は気になって聞いてみた。
「さくらも、これは守って欲しいという事はあるのか?」
「うーん?そうですね…。」
さくらは、人差し指を顎に当て、首を傾げた。
「普段から、良二さんは、私の大事にしているものは、大事にして下さるので、特に思いつかないですが…。寂しいから、あんまり長く離れて暮らすのは、嫌かな…。
単身赴任は、ちょっと無理です。私も連れて行って下さい!」
大真面目な顔で主張するさくらに、俺は笑って頷いた。
「分かったよ。さくら。俺も離れて暮らすのは寂しいし、もし転勤があったらついて来てくれ。」
「わぁいっ。」
ガシッ!
「おっと…。//」
さくらは大喜びで、俺に飛び付いて来て…。
「あっ…!//」
俺の肩越しに何かを見つけて、ビクッと肩を揺らした。
「あと…。夫婦の触れ合いは…大事ですよね…。(ドキドキ…♡)///あっ!?」
サッ!
と言いながら、さくらがそーっと落ちている拾おうとしたスティック状のものを横目で確認し、俺は先にそれを取り上げた。
「そうだな?でも、これはちょっと刺激的過ぎるから、駿也くん経由で、亜梨花さんに返してもらうな。」
「あ、あうぅ…。」
さくらが、おもちゃをとられた子供のような声を上げる中、俺はそれを駿也の荷物の方へ運んだのだった。
危ない危ない…。もうちょっとで、さくらの性癖を更に拗らすところだったぜ。
✽
翌日朝早く、駿也は、俺とさくら、あんずが心配して見送る中、神妙な顔で自宅へ戻ったのだが…。
間もなく、駿也は満面の笑顔で戻って来て、思わぬ朗報をもたらしてくれた。
「良二さん!さくらさん!俺、亜梨花さんに許してもらえました!
今、亜梨花さん、お腹に赤ちゃんがいるんですって!ぼ、僕の子だって!!」
「「ええっ!!赤ちゃん?」」
驚く俺達の下へ、西城亜梨花と雅也もやって来た。
「やっ。良二くん、さくらちゃん、昨日はありがとうね?
前からもしかしたらそうかなとは思う事があったんだけど、昨日日曜診療の病院行って判明してね。」
そう言って、西城亜梨花は嬉しそうにお腹に手を当てた。
「駿也。これからは父親になるんだから、しっかりするんだぞ?
一緒に亜梨花さんと子供を支えていこうな?」
「雅也っ。うんっ。うんっ。僕、これからは父親として恥ずかしくないよう頑張るよっ!!」
雅也はそう言い、駿也の肩をガシッと抱き、駿也は嬉し涙をボロボロ零し、何度も何度も頷いた。
寄り添う三人の姿は、家族そのもので、何事かと玄関にやって来たあんずが三人を祝福するように、ニャーと鳴くと、俺も三人に心からの言葉を伝えたのだった。
「「亜梨花さん、駿也くん、雅也くん本当におめでとう…!」」
✽あとがき✽
次話から、いよいよ、白鳥のざまぁへ向けて話が動いていきます。
白鳥の一夫多妻制家庭の崩壊と良二くん&さくらちゃんの関わりを見守って下さると有り難いです。
今後共どうかよろしくお願いしますm(_ _)m




