気付いてしまった事《白鳥慶一視点》
「けいちゃん。桃姫の面倒見といてね?」
「けいちゃん。瑠衣似のおむつ替えもお願いね?
香織さん、せっかくの休日に休ませてあげたいから、今日は出前頼んでくれる?」
「ハ、ハハッ。分かったよ。」
綺羅莉と舞香に散々用事を言いつけられ、挙げ句に出前まで頼まれ、僕は引き攣った笑みを浮かべた。
イベント会場で運命的な再会を果たした(※あくまで白鳥の主観です。)銀髪美少女の財前寺桜さんを釣り損なってからとことんついていない。
あの時邪魔されたジジイの幽霊に取り憑かれてでもいるのだろうか?
その後、インターンの純真そうな女子大生真凛ちゃんをつまみ食いしていたのはいいが、契約終了時に、「実は、私、パパ活をしていたんですぅ。」と仰天の告白をされた。
四人目の妻にしてくれるなら、パパ活辞めてもよいと言われたが、流石の僕も断った。
「清純そうなナリをして、ビッチじゃないか?騙された!」
と責める僕に、
「せっかく本命にしてあげようと思って、勇気を出して告白したのに、ひどいですぅ!言っときますけど、社長から誘ってきたんですからね!何かするなら、週刊誌の出版社に駆け込んでやりますよ!」
と彼女はすごい剣幕で怒り、その場で別れる事になった。
ひどい置き土産を残して…。
香織のクラミジア陽性が発覚したのは、彼女と別れて間もなくの事だった。
症状はほとんどなかったものの、僕も綺羅莉も舞香も全員陽性反応が出て、身に覚えのないという妻たち三人に問い質され、僕は真凛の事を吐かざるを得なかった。
嫌だったが、真凛に性病の事を電話で聞いてみると、それについては何も答えず「次に連絡して来たら、週刊誌のネタにしてやる!」と電話を切られ、泣き寝入りする事になった。
性病を移した事で、家庭内の僕の立場は弱くなり、妻達に仕事以外は家に軟禁され監視されるようになった。
完治した後も、妻達から汚いものを見るような目で見られ、夜の生活を拒まれ、用事だけ言いつけられる地獄のような日々…。
くそっ。面白くない!以前は疲れてる時でもお構いなしに行為を求めて来やがったくせに、ちょっと性病移したぐらいでバイキン扱いしやがって、亭主をなんだと思ってやがる?
会社の業績も陰が差してきたし、あの時釣り損ねた銀髪美少女の財前寺桜は、風の便りでRJ㈱社長の財前寺龍人が認めた非の打ち所がない男と結婚するという事を聞いた。
可憐な銀髪美少女が他の男の手に渡る事になり、歯噛みしたが、あの財前寺龍人がそこまで言うからには相手の男は余程すごい奴に違いない。
悔しいが諦める他なかった。
その後、彼女はモデル兼料理研究家として華々しい活躍をしているらしい。彼女を捕まえられていたら、今頃は甘い生活を送れ、宣伝効果の高い人材を手に入れられ、プライベート、ビジネス共に充実した生活を送れていただろうに…!
逃がした魚は大きいとはこの事だった。
「「アンパンマムみる〜。」」
「マムー。」
「分かった分かった。」
子供達の機嫌を取る為、アンパンマムのDVDを見せようと居間に戻ると、香織が目に涙を浮かべてテレビの前に呆然と座り込んでいた。
「香織…?」
「あっ…!な、何でもないわ。か、花粉で目が…。」
香織は、俺に気付くと誤魔化すように目元の涙を拭った。
「あっ。香織さん。お昼、けいちゃんが出前とってくれるって。」
「何にする〜?」
「そ、そうなの。ちょっと、私食欲がなくてお昼はいらないわ。あなた達で決めて?」
「「え〜。香織さん?」」
「じゃあ、私、部屋戻らせてもらうわね?」
香織は青い顔のまま、そそくさと自分の部屋に戻って行った。
「え〜、せっかく香織さんの為に出前とってあげようとしたのに。」
「ね〜。なんか、気に食わない事でもあったのかな?ホンット気難しい人だよね〜。」
「………。」
舞香と綺羅莉が呆れたように肩を竦める中、俺は香織の様子が尋常じゃない事に気付いていた。
あれは、怒っているというよりは何かにショックを受けていた様子だったな…。
一体何があったんだろう?
『は〜い。では、次に簡単に出来るミートボールの作り方なんですが…。』
!!
ふとテレビの画面を見て、俺は声を上げそうになった。
そこには逃がした魚、財前寺桜さんが、スタジオのキッチンで料理をしている様子が映し出されていたのだ。
「あっ。まだ、あの番組やってる。」
「しかも、なんか録画されてない?」
「あ〜、さっきテレビ消そうとして、間違えて録画ボタン押しちゃったんだわ。ヤダ、もう!」
プチプチッ!
綺羅莉は舞香とげんなりした顔を見合わせ、録画と電源を同時に消した。
✽
その後、皆が寝静まった深夜、僕はそっとリビングに忍び寄り、テレビの前に立つと、昼間に録画された番組を再生した。
なんとなく香織の様子が気になったのと、単純に可憐な財前寺桜さんの映像を見たかった為、しばらく、番組を視聴していた僕だったが…。
『石藤桜さ〜ん。』
『は〜い。///』
んっ??
番組の司会に呼ばれ、照れながら返事をする銀髪美少女に、僕は目を見張った。
今、石藤って…?香織の元カレと同じ名字…?
『ご主人との馴れ初めは、13年前とお聞きしたのですが…。』
『はい。旦那様は私が、まだ小三の頃、不審者につけられているところを助けてくれた方の一人なんです。
不審者の人を追い払ってくれた後、まだ不安な私に、お守りをくれたんです。』
『あら、ヒーローじゃないですか!勇敢で優しい旦那様なんですね。』
『ええ。でも、ちょっと抜けてるところもあって…、ふふっ。そのお守り安産のお守りだったんですよ?そういうところも可愛いんですけどね?良二さんは…。』
「??なん…だとっ?!」
衝撃の事実に気付いてしまい、僕は思わず声を上げた。
『私が成人してから出会った彼は、やはりとても素敵な人で、再会した翌日に私からプロポーズしてしまいました!
この一夫多妻の許された社会で、唯一の妻として愛して下さる良二さんと結婚できて、私は今、信じられないぐらいに幸せです。』
「財前寺桜さんの結婚相手は石藤…良二…?
あの、香織の元カレの冴えない男っ!?」
僕はテレビ画面に向かい、呆然と呟いた。
『あらあら。旦那様との熱烈な惚気話ありがとうございました。お二人は固い絆で結ばれていらっしゃるんですね。』
『はい。例え、何があっても私は旦那様を信じてその手を離しません!!』
「…!!」
純真そうな瞳でそう言い放つ銀髪美少女を見遣り、僕はニヤリと笑った。
そう言えば、香織も13年前はこんな感じの清楚な美少女だったな。
香織が、これを見て青褪めていた事からも、財前寺桜の結婚相手が石藤良二という事は間違いない事なのだろう…。
「ハハッ!何だよ、どこが非の打ち所がない男だ…?あいつのどこが…!財前寺龍人め、人を騙しやがって…!
こんな奴が相手というなら話は別だ!ハハッ!ハハハハッ!」
僕は笑いが止まらなかった。
これまでの全ての不運をひっくり返す目が見えて来た。
どんな手を使っても構わない…!
財前寺桜さんを僕が石藤から奪ってやろう。
そうすれば、今までとは比べものにならないぐらいの幸運が俺のものになるだろう…!!
その為に、皆が幸せになれるような計画を立ててあげなきゃいけないね!
なんたって僕は王子様なんだから!
✽あとがき✽
前回誤って2話投稿してしまい大変すみませんでしたm(_ _;)m
これにて、3章本編終了となります。
今まで読んで下さりありがとうございました。
おまけ話を5話挟んで、最終章に当たる
4章「白鳥へのざまぁ。そして、一夫多妻制の許された社会で俺は…。」
を投稿していきたいと思います。
今後ともよろしくお願いしますm(__)m




