気付いてしまった事《白鳥香織視点》
とある日曜の朝。
「ん?随分床周りが綺麗になっている??」
居間の掃除をしようとすると、埃がほとんどない状態で、私は驚いた。いつも1週間分の埃が積もっているのにどうしたんだろう?
「香織さ〜ん。床掃除はうちが昨日やってるから、大丈夫だよ?香織さん、せっかくの休日なんだから、ゆっくりしてなよ。ホラ、座って?」
「え、ええっ?綺羅莉ちゃんが掃除してくれたの?」
親指を立てる綺羅莉に、ソファに座らされ、私が戸惑っていると…。
「香織さん、テーブルの上にあるクッキー食べていいよ?紅茶とコーヒーどっちがいい?」
キッチンにいる舞香が声をかけてくれ、私は目を見開いた。
「えっ。綺羅莉ちゃんが飲み物を出してくれるの?!じゃ、じゃあ、紅茶…で…?」
「まいまい、あたしも紅茶!」
「了解〜!待っててね?」
私の返事に重ねるように綺羅莉も飲み物を頼み、舞香は快く返事をしていた。
「パパ、もっかい、おんまさんになって〜!」
「パパ、ウマ〜!!」
「パパ、ウンマ〜!」
「ま、待て、お前達、順番だから!ま、舞香〜!俺にもコーヒーを…。」
「は?けいちゃん、飲み物なんて、子供達が倒すと危ないでしょ?後で自分でやってくれる?」
「は、はい…||||」
隣の部屋で子供達の面倒を見ていた慶一がコーヒーを頼むも、舞香に冷たい視線を向けられ、一蹴されていた。
私は子供にもみくちゃにされている慶一を複雑な思いで見遣った。
私のクラミジア陽性が判明してから、すぐに全員の陽性が分かり、身に覚えのない私、綺羅莉、舞香が慶一に問い質すと、慶一が会社のインターンの女の子と関係があった事が分かった。
その女の子はパパ活をやっている子で、インターン期間が終わると同時にそれが判明して別れたところだったらしい。
普通なら不倫で慰謝料が請求できるところだが、一夫多妻制家庭は不倫時のペナルティに関する規定が緩く、取れたとしても大した額にはならない。
加えて、慶一がインターンの女の子を強引に口説き落としたというのは、社内中の皆が知るところらしく、週刊誌にでもかぎつけられたら今の信用を大きく損なう事になる。
結局大事には出来ず、しばらくは慶一の素行を三人の妻で監視し、軟禁する事となった。
幸い、病気自体は全員後遺症もなく、薬で全員すぐ治療出来た。
けれど、慶一が綺羅莉、舞香に引き続き、他の女の子と関係を持ったせいで不妊になりかねない病気を移された私は、大きなショックを受けた。
本当に慶一を愛しているのか、この人との子供を欲しいと思っているのかすら分からなくなり、離婚の文字が頭を過ぎった。
そして、今の病院での不妊治療を中断する事にしたタイミングで、綺羅莉と舞香は私にすり寄ってくるようになった。
家事も前よりはやってくれるようになり、いい事な筈なんだけど彼女達の急な変化は正直気持ち悪い。
隠している事もあるみたいだし、何か企んでいるんじゃないかしら?
「さぁ、女三人でテレビでも見よ見よ!」
「ええ…。」
紅茶とお菓子を提供され、両隣を綺羅莉と舞香に挟まれ、ぎこちない笑みを浮かべ、バラエティー番組を見ていると…。
『今日は、今、話題のモデルにして料理研究家の財前寺桜さんに来て頂いていま〜す!!』
『よろしくお願いします。』
わあっ!
『可愛いっ!』
『顔小さっ!足ほっそ!』
画面の中で、スタジオに、皆の歓声が上がる中、銀髪に青い目の美少女が登場して品の良い仕草でペコリと頭を下げた。
「あ〜、この子、最近やたら雑誌に出てる子ぉ!ホラ、ここにも載ってる。」
綺羅莉は近くにあった雑誌の中のその子が出ているページを指差した。
「彼に作ってあげたい♡簡単に出来る北欧料理」
というタイトルに、テレビに出演している銀髪美少女の顔写真と、簡単なシナモンロールと、シチューのレシピが載っていた。
(へえ…。このパン一時間位でできるんだぁ…。巻き方が可愛くて美味しそう…。シチューの具材は…。)
私が興味を引かれていると、綺羅莉は鼻に皺せて嫌そうに言った。
「ウチ、こういういかにもブリブリした女嫌いなんだよね?料理が上手ってより、男に媚売ってブレイクしたんじゃないの?」
舞香も拳を握り締めて頷いた。
「分かる〜。気に食わないオーラあるよね〜。アイドル業界でもこういう私、何にも望んでません〜って一見清楚な子がプロデューサーに媚売って、さらっとセンターとか攫ってくんだよね〜!まだ若いし、料理だってありきたりのメニューだし、そんなに上手じゃないんじゃないの?ねっ。香織さん!」
「えっ。え、ええ…。まぁ、そうね…。」
本当は品のある銀髪美少女に好感を持ったし、簡単に出来るなら、作ってみようかと思うメニューだったけど、二人の勢いに押され、困ったようにそう言うしかなかった。
『財前寺桜さんの出された、今大ヒット中の「彼に作ってあげたい 愛情レシピ100♡」という料理本なんですが、最近結婚されたご主人に、作って喜ばれた料理を纏められたものだとか…?』
『は、はい…♡そうなんです。///』
「けっ。ぶりっ子〜。本当はたくさん男がいて、自分を引き取ってくれる男と結婚したんじゃないの〜?」
「あり得る〜!他の男の子供がお腹にいたりして!」
↑※託卵妻達ブーメランです。
「いや、どうだろ…。」
画面の中の銀髪美少女に言いたい放題言っている綺羅莉と舞香の発言に苦笑いした。
いや、あなた達の方がよっぽどそんな感じに見えるけど…。
↑※香織、鋭いです。
「もう面白くないから、他の番組にしよ?」
綺羅莉がリモコンに手を伸ばした時…。
ドサドサッ!!ゴンッ!!ガンッ!!
「あぎゃーっ!!」
「うわぁ〜ん!!」
「桃姫?」
「瑠衣似?」
大きな物音共に子供の泣き声が聞こえて来て、その瞬間、綺羅莉と舞香は隣の部屋へと飛んで行った。
「もう、けいちゃん何やってるの!よしよし瑠衣似。」
「ちゃんと面倒見ててよ!桃姫、痛かったね?」
「いや、だって二人同時に背中に乗ってくるから…。」
「「うえ〜ん!!」」
二人の妻に怒られ、慶一が言い訳している声、子供の泣き声が聞こえて来て私はため息をついた。
大変なんだろうけど、こういう親子のよくあるシーンを目の前で演じられると、私だけ入っていけない。
私って何の為に、ここにいるんだろう?
隣の部屋では繰り広げられている夫婦喧嘩から逃避するように、テレビの画面を見遣ると、そこには若き料理研究家の銀髪美少女が恥ずかしそうな笑みを浮かべていた。
(そう言えば、元カレと一緒に助けたあの子も、銀髪に青い目の綺麗な子だったな…。名前はなんて言ったっけ?確か…。)
『結婚してから、なかなか慣れない事ですか?え〜と、名字が変わった事ですね。やっと最近、呼ばれた時に間を置かず返事が出来るようになって…。』
『石藤桜さ〜ん。』
『は〜い。///』
えっ??
番組の司会に呼ばれ、照れながら返事をする銀髪美少女に、私は目を見張った。
今、石藤って…?元カレと同じ名字…?
『ご主人との馴れ初めは、13年前とお聞きしたのですが…。』
『はい。旦那様は私が、まだ小三の頃、不審者につけられているところを助けてくれた方の一人なんです。
不審者の人を追い払ってくれた後、まだ不安な私に、お守りをくれたんです。』
『あら、ヒーローじゃないですか!勇敢で優しい旦那様なんですね。』
『ええ。でも、ちょっと抜けてるところもあって…、ふふっ。そのお守り安産のお守りだったんですよ?』
「嘘でしょっ?!」
私は口元を押さえて思わずソファから立ち上がった。
手足をワナワナと震わせながら、昔の記憶が鮮明に蘇った。
『私、桔梗小学校3年生の財前寺桜です。』
『これ(安産のお守り)、可愛いから持ってたいです。お兄さんがいるんじゃなかったら、目的が違ってもいいので、もらえませんか?』
ま、まさか、そんな事が…!
あの時のさくらちゃんが、テレビに出ている財前寺桜だなんて、そ、そして、結婚相手は…!
『そういうところも可愛いんですけどね?良二さんは
…。』
「あ、ああっ…!!||||」
衝撃の事実に気付いてしまい、私は今にも倒れそうだった。
『私が成人してから出会った彼は、やはりとても素敵な人で、再会した翌日に私からプロポーズしてしまいました!
この一夫多妻の許された社会で、唯一の妻として愛して下さる良二さんと結婚できて、私は今、信じられないぐらいに幸せです。』
「っ…!!うっ…。うふぅっ…!!」
気付けば、私はテレビ画面に向かい、涙を流していた。
『あらあら。旦那様との熱烈な惚気話ありがとうございました。お二人は固い絆で結ばれていらっしゃるんですね。』
『はい。例え、何があっても私は旦那様を信じてその手を離しません!!』
「…!!」
そして、私は、13年前のあの時の自分の気持ちを思い出した。
良二くんと手を繋いで、この手が離れるなんてあり得ないと思っていた事!
そしてー。私があの時とても幸せだった事!!
「うっ、ううっ…!ひぐっ…!うあぁっ…!!」
私はその場に崩れ落ちて泣きじゃくった。
気付いてしまった…。
私、今、不幸だ…!!
✽あとがき✽
追記:読んで下さりありがとうございます!
実は誤って2話分同時に投稿してしまいました。
活動報告で、そのままのスケジュールで投稿していきたいと言った先から乱れてしまい大変すみませんm(_ _;)m
このまま繰り上げて投稿したいと思いますので、17時の投稿もあります。
ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします。




