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招かれた猫と銀髪少女


「お前…。」


「ニャー!」


 俺の姿を見ると、野良三毛猫は、いつものように嬉しそうにひと鳴きした。


 しかし、俺は今その猫を見て、嬉しい気持ちには到底なれず、渋い顔になった。


「おい。野良。お前のせいで、今日は大事な予定も台無しになるし、なけなしの信用も失うし、背中は痛いし、散々だったんだからな?」


「ニャ?」


 指を突きつけて、八つ当たり気味にそう言ってやると、猫はキョトンとした顔をした。


「ニャじゃねーよ。

 お前、なんだって、あんな道路の真ん中に突っ立ってたんだよ。


 咄嗟に助けちまったけど、もう、ぜってー助けねーからな?

 次は、自分の身は自分で守れよ?じゃな。」


「ニャーニャー!ニャー!!」


 文句を言い、家の中に入ろうとすると、猫は抗議をするように激しく鳴いた。


「何だよ?助けてもらった上、ご飯までねだるなんて、図々しいぞ?今日はよそで貰えや。」


 ガチャン!


 ドアを勢いよく閉めた俺だったが…。


「ニャーニャー!ニャーニャー!ニャーニャー!ニャーニャァ…↷」


「……………………。」




 数分後…。




「ったく、しょうがねーな…。少しだけだぞ?」


 根負けして、小皿に取り分けたしらすを玄関前に置いて猫にやる俺の姿があった。


「ニャー♡」


 猫は嬉しそうに鳴いたが、俺の顔とエサを見比べたまま、食べようとしない。


「ん?見てると食べ辛いか?じゃ、適当に食べててくれや。」


 と言って、俺が中に入ろうとすると、


「ニャーニャー!」


 必死に引き止めるような声を出して、猫は俺の後を追いかけて来た。


「??もしかして…家の中で食べたい…とか?」


 試しに、小皿を玄関に引き入れて、しばらくドアを開けたままにすると…。


 トットットッ…。


「ハグハグ…。ハグハグ…。」


 猫はゆっくりと玄関に入って来て、小皿の中のしらすを美味しそうに食べ始めた。


「マジか…。今まで、頑固なまでに家の中に入ろうとしなかったのに…。

 もしかして、助けた事で、懐かせちまったのか…?」


「ニャー!」



 猫は俺に返事をするように鳴いたのだった。


         *

         *


 それから、外で暮らしていた猫をそのまま家に上がらせるのは衛生的にどうかと思い、

 風呂場に直行し洗ってやると、猫は体を固くしながらも、ずっと耐えていた。


 そして、リビングの床にタオルケットを敷き、その上に体を横たえてやると、猫は丸まって動かなくなり、やがてすやすやと安らかな寝息を立て始めた。


 俺はその安心したような子猫の寝顔をみながら、さっき母に疲れたように言われた事を思い出した。


『はあ…。もう、あんたに見合いは勧めん。

 その助けた猫と暮らしたらいいわ…。』


「ハハ…。このままだと、本当に母親の言う通りになっちゃいそうだな…。はあ…。」


 苦笑いすると、今日起こった出来事を思い返し、重いため息をついた。


 本当に散々な一日だったな…。


 事故に遭って、意識を失くすし、お隣の駿也くんには迷惑かけてしまったし…。


 いい年して、見合いすっぽかすとか…。

 両親にも迷惑かけて、見合い相手にも最低な仕打ちをしてしまった…。


 これは、もう、神様から、『お前のような男が相手を探そうなんて気を起こすのは、金輪際やめておけ。』と言われているのかもしれないな。


 高校時代、一年以上付き合った元カノ、瀬川香織にも、「いいところが、一つもない」と言われて、振られるような男だ。


 所詮、俺なんか誰かを幸せにできるような甲斐性なんかなかったんだ。


 だけど…。


 そうは思いながらも、一方で、母から聞いた今日の見合い相手の様子に、その娘とあり得たかもしれない未来に思いを馳せずにはいられなかった。


『天使みたいに綺麗な銀髪の娘さんだったよ。性格もお淑やかで、優しそうで…』


 銀髪とは珍しいな…。一度だけ銀髪の子供に会った事があるが、あの子はとても綺麗な顔立ちをしていた。


 見合い相手もやはり、あんな綺麗な顔立ちの娘だったんだろうか。


 普通にお見合い出来ていたら、その娘がダメな俺を受け入れてくれる可能性もなくはなかったんだろうか…。


 いや、今更考えても仕方のない事だ。その娘との縁は最悪の形で切れてしまったんだから。


 俺は、戸棚にしまい込んでいたウイスキーを出して、グラスに注ぎ一気にあおった。


「ぷはっ。苦っ…!」


 安静にとは言われていたが、今日だけは、酒の力を借りなければ、やり切れなかった。


 柿の種をツマミに、ちびちび、3杯目を飲んでいた時ー。


 ブーッブーッ。


「んあ?」


 テーブルの上で携帯のバイブ音が振動した。見ると、和哉からの着信だった。


         *

         *


 飲みの誘いで電話をくれたらしい和哉に、かなり酔いが回った状態で、事情を話すと、向こうは衝撃を受けて引いていた。

         

『そ、そんな事があったのか…。||||||||

 良二、お前、本当になんでそんなに運が悪いんだ?一度お祓い行っといた方がいいんじゃないか?』


「ハハッ。ヒック。そうかもしんねーな。モテないオッサンの生き霊でもついてるかもしんねーな。って、俺みてーだな…?ギャハハハッ!」


 酒が入っているせいか、わけもなく楽しくなって、笑いが込み上げて来た俺だったが、和哉は更にドン引きしていた。


『りょ、良二…|||||||| 笑えねーって。何て言ったらいいか、分からないが、強く生きろよ?死ぬな!』


「ヒック。そうだな…。童貞のまま、死にたくないな…。死なないなら、生きなきゃなんねーよな…。ウンウン…。」


『お、おう。なんなら、俺の奢りでそっち系のデリバリー頼んでやろうか?』


 和哉に思わぬ方向の申し出をされ、俺は目を瞬かせた。


「あ?和哉、そういう店知ってんの?ハハッ。もうすぐ、結婚する相手がいるのに、不届き者だな!ヒック。」


『いや、もう今はやってねーけど!今の相手に出会う前、仕事で失敗して、腐ってた時ちょっとな……。

 体の方だけじゃなくて、優しく話を聞いて貰えるのも、メンタル的に癒されるっつーか…。』


「へー。癒やされるのか…。」


 真面目な和哉も、そんな経験があったのかと感心して聞いていると、気恥ずかしかったのか、奴は焦ったような声を出した。


『いや、俺の事はいいんだよ。今、辛いのは良二なんだから…。』


 心配してくれる友達の思いは素直に嬉しく、俺は和哉に礼を言った。


「和哉、何かありがとうな?興味ないわけじゃないけど、今日はやめとくわ。


 事情はどうあれ、俺のせいで今日は見合い相手の娘に辛い思いをさせちまった。

 それなのに、そんな思いをさせた当の本人が他の女の子呼んで癒やされるなんて、許されないと思う。

 しばらくはその娘に懺悔して過ごすよ。

 取り敢えず、死なねーから心配するな?」


『そうか…。何かお前らしいな…。』


 俺の言葉に和哉は、そう言って苦笑いしているようだった。



 それから、再来週に飲む約束をし、和哉との電話を切り、更に2、3杯酒が進み、意識が朦朧とし始めた頃…。


 ピンポーン!


 玄関のチャイムが鳴り、俺がフラフラとインターホンの近くへ行き、画面を覗いてみると…。


 ?!


 そこには、銀髪の清楚な美少女が、インターホン越しにこちらを覗いていた。


 何事かと、恐る恐るインターホンの受話器を取ると、その美少女は顔を赤らめ、思い詰めた様子で美しいソプラノの声を響かせた。


『石藤良二さんのお宅でしょうか…?』


 あらあら。猫の次は銀髪少女のご訪問かよ?


 この常ならない様子…。もしかして、デリバリーサービスという奴!?


 いいと言ったのに、和哉の奴、本当に呼んじゃったのか?


 ううっ。清楚お嬢様系女子とほ、俺の好みドンピシャじゃねーか!


 懺悔の身として、サービスを断りこのまま身綺麗でいるべきか?

 こうまでしてくれた友人の好意を無下にせず、サービスを受け取るべきなのか?


 食うべきか食わざるべきか…。それが問題だっっ!!



 ※主人公は、かなり酔っていてまともな思考判断が出来ていない状態です。


*あとがき*


 読んで頂きまして、本当にありがとうございますm(_ _)m


 今後ともどうかよろしくお願いします。

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