ブラックアウトの後に…。
野良の三毛猫を抱えて道路の脇によけようとした時、クラクションが鳴ると同時に背中に衝撃を感じたのを最後に意識は途切れた。
次に意識が戻ったのは病院のベッドの上だった。
「んあ…?俺は一体…??いてて…!」
起き上がると背中がズキズキと痛んだ。
「あっ!良二さん、意識が戻って良かったあぁっ?!」
「駿也くん…?」
お隣の駿也が、俺の顔を見るなり、泣きべそになっていた。
「良二さん、野良猫を庇ったところを車に当てられて、意識を失っていたんですよ。
車はそのまま走り去って行ってしまって、僕、もう、ビックリして、すぐ救急車呼んだんです。
医者の話では、背中の打ち身以外の外傷は今のところないって事でしたが、意識を取り戻すまでは心配で…!本当によかったです…。今、意識が戻った事、伝えて来ますね?」
「いや、ごめん。駿也くん。ありがとう…。」
ずっと付き添ってくれていたらしい駿也は、急いで病室を飛び出していき、俺は彼に迷惑をかけて世話になってしまった事を、申し訳なくも有り難くも思った。
ふと、病室内のデジタル時計を見てみると、時計は16:00と表示されていた。
お見合いの時刻は、13時…。
ああ、やってしまった……!!
俺はただ頭を抱えるしかなかった。
それから、医者に診察を受けたが、後から後遺症が出てくる可能性もあるので、今日は安静にするようにと言い渡されつつも、外傷が背中の打ち身だけであった為、湿布と念の為の痛み止めだけもらい、すぐに帰れる事になった。
駿也は、俺を心配して帰りも付き添ってくれると言って聞かなかったため、見合いの件で両親に連絡する間少し待っててもらった。
カバンから携帯を取り出し、重苦しい思いで親に電話をかけてみると、繋がるなり、母親の金切り声が聞こえて来た。
「良二っ!?あんた何回電話したと思ってるのっっ!?
気が進まんのは分かってたけど、何もすっぽかす事はないでしょうが…!!
特に今回は父さんの取引先の社長さんがいらしてたっていうのに…!!」
当然ながら怒り心頭の電話の向こうの母親に、俺はひたすら謝るしかなかった。
「す、すまない…!実は、向かってる途中で、事故にあって…。」
「ええっ!?」
驚く母に、かくかくしかじかと事情を話すと…。
「そりゃ、あんた…。見過ごせなかったのは、あんたらしいっちゃ、あんたらしいけど…。それは、人生のかかったこの大事な時でなければいけなかったんかね…?」
母は怒声からやがて諦めの境地のような疲れた声に変わっていき、俺は、余計に申し訳なくなった。
母はやり切れないようにため息をついた。
「はあ…。もう、あんたに見合いは勧めん。
その助けた猫と暮らしたらいいわ…。」
「ほ、本当にすまない…。あの、先方さんは…?父さんの仕事に悪影響があったりしてしまうんだろうか…。」
恐る恐る、母親に聞くと、それはすぐに否定された。
「いや、先方の社長さんはとてもいい方で、平謝りする私達に、
「縁談はないことなったとしても、この事で、仕事に影響する事はないから、安心していい」と言って下さって…。
なんでも、昔、良二に恩があるような事も仰ってたわ。
けど、相手の娘さんが、しょんぼりしていたのが、本当に可哀想で、申し訳なくってね…。」
「あ、相手の娘さんしょんぼりしていたのか?」
「ええ。天使みたいに綺麗な銀髪の娘さんだったよ。性格もお淑やかで、優しそうで、あんたには勿体ないぐらいの娘さんだったから、最初から縁がなかったのかもね…。」
ため息混じりにそう言う母の言葉に俺は衝撃を受けた。
天使みたいに綺麗な銀髪の娘さん…!
アナベ◯の奥さんじゃなかったのか…。
以前、見合い相手に当日予定をキャンセルされた事があった俺は、その綺麗な娘にあんな惨めで辛い時間を過ごさせてしまったのかと、より一層胸が痛んだのだった。
「俺、出来れば、先方に謝罪しに行きたい…。」
罪悪感に呻くように言うと、母は難しそうな返答をした。
「う〜ん。先方に伝えてはみるけど、縁談は破談も同然になっているし、会って下さるかどうかは分からないわよ?」
「それは分かってるよ。」
取り返しのつかない事をしてしまったのは分かっている。けれど、こうなってしまった経緯だけはきちんと説明して、せめてもの誠意を見せたかった。
「それで、あんた、本当に体は打ち身だけで、不自由はないのね?」
「あ、ああ…。今のところ背中の打ち身が少し痛むくらいで、生活に不自由はないよ。」
「それなら、いいけど…。今日は安静にしといて。とにかく、一度話をしたいから、近い内に父さんとそっちに行くわ。」
「分かった。今回は本当にすまなかった…。」
そうして両親に申し訳ない気持ちで俺は電話を切ったのだった。
*
*
「良二さん、あの、お見合い、残念でしたね…。お気を落とさずに…。」
帰り際、流石にこれだけ世話になった相手に事情を話さない理由にいかず、用事が見合いだった事も駿也に伝えたのだが、彼に神妙な顔でそう言われ、俺は若い彼に気を遣わせてしまった事に苦笑いを浮かべた。
「ああ。ありがとう。でも、見合いが失敗するのはいつもの事だから、そんな顔しなくていいよ。
それより、今日は駿也くんのお陰で命拾いした。本当にありがとう。近い内に、この礼は必ずさせてもらうよ。」
「いーえー。お礼なんていいですよ。良二さんが無事で本当によかったです。打ち身だけって事ですけど、今日は俺、家にいるんで、なんかあったら呼んで下さいね?」
「ああ…。ありがとう。」
いつもは人をすぐ飲み会に引きずり込むちょっと面倒な隣人達と思っていたが、こうやって大事な場面で助けられる事もある。
これからは、彼らに足を向けて寝られないな…と思ったのだった。
そして、何度も彼に礼を言い、家の前で別れた後…。
ドアの前に、あの野良の三毛猫が座り込んでいるのを見つけた。
✽あとがき✽
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追記:ランキングの情報に連載中とつけ忘れました。大変すみませんでした。