誕生日の夜に魔法をかけて《前編》
「ニャアーン!」
家の中へ戻ると、玄関先であんずが俺達を迎えてくれた。
「あんずちゃん、出迎えてくれてありがとう!
今日から、ずっと一緒ですよ?よろしくくね?」
「ニャン♡」
さくらがそう言って、あんずを撫でると彼女は嬉しそうな鳴き声を上げた。
あんずは、俺が仕事の間も家に何度も出入りしてお世話してくれるさくらの事をもうすっかり家族として懐いてくれているようだった。
「さくら、こっち来て。荷物は、もう届いていて君のスペースに置いてあるよ。」
「ありがとうございます。わあ…✧✧」
さくらを部屋に案内すると、彼女は目を輝かせた。
洋服ダンス、ドレッサーや本棚などさくらの趣味の空間と、俺のパソコンデスクが家具で仕切られていて、完全な個室ではないが、それぞれのパーソナルスペースが確保されていた。
「その…、元いたお家より大分狭く感じると思うけど、ごめんね?」
「いいえ?すっごく素敵なお部屋です!
今日から、ここに住めるんだなぁとじーんと来ちゃいました…!」
社長令嬢で、すごい御屋敷に住んでいたさくらが窮屈に感じてしまうのではないかと、心配していたが、
さくらは部屋が気に入ったようで胸に手を当てて感激していた。
「それならよかったよ。」
「良二さん、用意して下さってありがとうございました。お家の改装とかも大変だったでしょう?」
「いやいや。俺は手続きをしただけで、大した事はしてないよ。キッチンは大分変わってるから、後で見てみてくれる?」
「はっ。はい!楽しみです!!」
将来的な事も含めて、新婚の夫婦が暮らしやすいように、業者さんに頼んでこの家を少し改装してもらっていた。
一番いじったのは、キッチン周り。調理専門学校を卒業したさくらは、しばらく先生の下について手伝いの仕事をするという事だった。
家で料理の練習をする機会も多いだろうという事で、最新式の調理家電製品を備え付けてもらった。
これに関しては財前寺さんからも、かなり補助を出して頂いていた。
「お礼は、これからいっぱい美味しいお料理を作ってお返ししていきますねっ?
良二さんっ。」
「ああ。何よりのお礼だよ。期待してる。」
「はいっ!取り敢えず、夕食は期待しててくださいね?まずはこっちを片付けなければいけないですけど…。」
さくらの方のスペースに積み上がっているいくつも段ボールをこれから荷解きしていかなければならない。
「俺も手伝おうか?」
「いいんですかぁ?では、そのお玉の絵柄が書いてある段ボール、台所用具なので、キッチンの方へお願いします。」
「お玉の絵柄の段ボール…。あっ、コレだ。じゃあ、キッチンに運んでくるな?」
「ありがとうございます!」
✽
「ふうっ。台所用品ってこんなに多いんだな…!流石、プロを目指している人は違うなぁ…。」
俺が何箱もの段ボールをキッチンへ置いて感心していると…。
「ニャニャッ!?」
ガシャーン!ドサドサッ!!
「キャーッ!!あんずちゃん!!」
「どうした?!さくら!!あんず!!」
けたたましい物音と悲鳴が聞こえ、慌てて部屋に戻ると…。
「??!////」
「はぎゃあっ!!りょ、良二さん、来ちゃダメェッ!!////」
「ニャ、ニャアン!」
どうやらあんずが部屋に乱入して、段ボールをひっくり返してしまったらしく、さくらは、整理途中のさくらのBL♡同人誌コレクションの上に、さくらの下着などが散乱しているのを見られ真っ赤になり、あんずは、レースのブラが足に絡まり困っているというとてもカオスな状況になっていた。
布面積小さめのブラ、Tバックや、紐パン、すけすけのネグリジェなど、結構過激なお召し物も多く見られ、目のやりどころに困ったのだが、一番衝撃的だったのは…!
『0.◯2』や、『すごうす』 などの薄い箱も(各種サイズ)かなり大量に転がっていた事だった。
「ち、違うの!違うんです!ここ、これは、あの、メイドさん達が結婚のお祝いにくれたもので、お守り代わりというか…!ふ、深い意味はなくってぇっ…!」
パパッと、その箱を段ボールに回収しながら、涙目で弁解するさくらに、俺は気まずく頷いた。
「そそそ、そうか。さくら…。」
ま、まぁ、忙しさやら何やらでここまで引っ張ってしまったけれど、一緒に住むのだし、もういい加減ちゃんとしなきゃいけないよな…。
俺は勇気を出して、さくらに言ってみた。
「い、一応言っとくけど、俺、サイズはMだから…。///」
だから、流石にXLまでは用意しなくてよかったと思うぜ…?メイドさん達よ!
「…!!///」
驚いたようにこちらを見てくるさくらに俺は更に続けた。
「その…。お守り代わりというんだったら、い、1個ぐらい寝室に、置いておいてもいいのかも…な?////」
「…!!そそ、そう…ですね…。じゃ、後で、お守り置いておこう…かな?////ちなみに、良二さん、私、この間生理が来たばかりで、きょ、今日は…大丈夫…ですから…。」
「…!!お、お、おう…。そ、そっか…。じゃ、じゃあ、俺、あんずが邪魔しないよう、連れて部屋出てるから、整理は任していいかな?」
「は、はい。大丈夫…です。あ、あとでキッチンの方へ行きます…ね?」
「お、おう。ホラ、あんず、行くぞ?」
「ニャ、ニャァッ。フウッ!」
絡まるブラの紐から救出され、安堵の息を漏らすあんずを抱っこして、俺はリビングへ向かったが、さくらとの行き詰まるようなやり取りに、まだドキドキしていた。
色んな理由で今までタイミングを逃してしまっていたけど、俺もさくらも多分気持ちは同じー。
今夜は二人にとって特別な時間になるだろう。
はやる気持ちを抑えきれそうにない俺だった。
✽あとがき✽
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