桜は散れども…幸せなある春の日❀
恐怖の年度末が終わり、優秀な派遣社員も入り、仕事もようやっと落ち着いたよく晴れた4月上旬の休日。
今年は、思わぬ昇進と、それによるあり得ない忙しさで、今年は格別の美しさだったという桜を見る機会もないまま、とっくに散ってしまった時期ではあったけれど…。
今日はその美しい花と同じ名の婚約者を家に迎え、一緒に暮らし始める記念すべき日…そして、奇しくもそれは俺の誕生日にも当たっていたのであった。
キキィッ。
「…!!」
先に受け取っていたさくらの荷物が置いてあるさくらが使う予定の部屋とリビングを何度も行き来し、家の中でソワソワしていた俺は、
聞いていた時間の少し前に、いつもの黒塗りの高級車が、家の前に止まるのを窓から見ると、胸が高鳴った。
ピンコン!
それとほぼ同時に、スマホのメール着信音が鳴る。
『良二さん、さくらです。今お家の前に着きました!』
『いま行くよ!』
ダッ!
「ニャーッ?」
返信を打つなり、玄関へ急ぐ俺をあんずが引き止めるように一鳴きしたが、
「あんず、すぐ戻るよ!猫缶くれたお姉さんと一緒に!」
「…!ニャッ。」
そう言うと、「了解」というように、彼女は頷くような仕草をして大人しくなった。
全く空気を読むにゃんこだ。
バタン!
俺は靴を履くのももどかしく、家の外へ飛び出した。
すると、扉のすぐ前に、キャリーカートを抱えて息を切らしたピンクのワンピース姿の銀髪美少女が立っていた。
「あっ。良二さぁんっ!今日からよろしくお願いしますっ!!」
「さくら…!こちらこそ、今日からよろしくお願いします…!」
俺はその満開の桜のような笑顔に心満たされる思いがしながら、差し出して来たその温かい手を取った。
「さくらは本当に、良二くんの事となると行動が早いなぁ…!」
「さくらお嬢様、素晴らしい行動力でございます…!」
「「!」」
車から降りて来た桜の父、財前寺さんと権田さんが俺達を見て微笑んだ。
「良二くん、桜の事、今日からよろしく頼むよ。」
「は、はい!これからは、さくらの事、精一杯守らせて頂きます。」
「お父様…。良二さん…。」
「ありがとう。頼りにしているよ。
式までは間があるし、今後も権田を迎えに出して、家と行き来するような事はあると思うけど、よろしくね。」
「はい。そうして頂けるなら、俺も安心です。権田さん、よろしくお願いします。」
「はい。石藤様、お任せ下さいませ。同じ道のりではありますが、今日からはこちらがさくらお嬢様のご自宅になられるとの事、権田、感無量でございます。」
「「権田さん…。」」
そう言って目を潤ませている、権田さんに、俺もさくらも胸が詰まった。
財前寺さんが、ポンと権田さんの肩を叩いた。
「ホラ、権田。ここで湿っぽい雰囲気になるのもなんだし、今日は二人も大忙しだろうから、その辺で…。」
「は、はい。申し訳ありません。」
財前寺さんに困ったような笑顔で窘められ、権田さんは恐縮したように体を縮こまらせていた。
「まぁ、また、別の日に家族皆で食事会でもしよう。
良二くん、さくら、二人共仲良くね。何か困った事があったら、相談するんだよ?」
「石藤様、さくらお嬢様、お幸せに…!」
「「はい。ありがとうございます。財前寺さん(お父様)、権田さん…。」」
俺とさくらは、再び車に乗り込み去っていく姿を見送った。
隣で二人を見送るさくらの横顔に、寂寥の色が浮かんでいるのを俺は胸の痛む思いで見守ったが…。
車が見えなくなり、ふうっと息をついた後の彼女は、もう笑顔になっていた。
「良二さん、今日からはずっと一緒ですね?私、この日をすっごく楽しみにしていたんですよ?」
「お、俺もだよ。さくら…!」
「それから、良二さん、お誕生日、おめでとうございます…!同居の日と、重なってしまって、バタバタしてしまって、すみません。後でちゃんとお祝いしますからね!ふんすっ!」
「ははっ。ありがとう。さくら!けど、今日は、荷物解くのとか大変だろうし、あんまり無理しないでいいよ?」
拳を握り、気合いを入れる彼女に、俺は顔が緩ませながらそう言ったのだった。
✽あとがき✽
いつも読んで頂き、ブックマークや、リアクション、ご評価下さって本当にありがとうございます
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交換日記を書いているさくらちゃんと、良二くんのお家にやって来たさくらちゃんをイメージしたAIイラストをみてみんに投稿していますので、そちらもご覧下さると嬉しいです。
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今後ともどうかよろしくお願いします。




