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一夫多妻制の許されたこの社会で俺は銀髪少女に唯一無二の愛を貫く  作者: 東音
第三章 そして幸せな生活が始まる。一方NTR夫婦は…。
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婚約者との交換日記 さくら→良二

 クリスマスの夜は、さくらの豊満な胸に圧迫され、危うく三途の川を渡りかけた俺だったが、生還した後は楽しく過ごし、同じベッドでさくらと抱き合いながら朝を迎えた。(あんずは猫用のベッドで丸まって寝ていた。)


 体の結びつきはなかったが、共に夜を過ごした事で、さくらを今まで以上に近くに感じるようになった。


 そして、次の機会には今度こそさくらと…。


 と思っていたのだが、その機会はなかなかやって来なかった。


 というのも、年明けから仕事が急激に忙しくなってしまったのだ。


 大企業の社長令嬢、さくらとの結婚は、余計な横槍が入らないようにと、極力周囲に秘密にしていた。


 その為、今まで仕事にもさして影響がなかったのだが、流石に結婚式の招待状を渡す時期には公にせざるを得ず、上司には「財前寺家と繋がりができる事をなぜ今まで言わなかったのか!」と責められ、急に責任ある仕事を任されるようになった。


 うちの会社はMF(株)といい、企業用のレンタル機材を貸し出す会社だったが、輸入品や、それを取り扱うお店など幅広く事業を営むさくらの父、財前寺さんのRJ(株)関連の仕事を取ってこれるのではないかと期待され、営業係の主任でしかなかった俺を、即、係長にされ、人事異動のタイミングで課長の職に就かされる事になったのだ。


 例を見ないスピード出世を強行される事になり、ただでさえ忙しい年度末に、大量の仕事を回され、俺は目が回りそうだった。


 休日出勤当たり前。連日深夜帰り&徹夜が続く中、さくらとは時間帯が合わずに親同士の新年会で会って以来、なかなかゆっくり会えていなかった。


 しかし、優しい俺の婚約者は何もしてやれない俺のそんな状況を大層心配してくれ、家の改装の立ち会い、あんずの健診などの必要な用事や家事などを引き受けると言ってくれたのだ。


 4月から一緒に暮らし始める事もあり、既にさくらには家の鍵を渡していて、会えない時には、ノートで近況や、連絡事項を報告してくれるようになった。


 睡眠不足で疲労困憊している俺は気の利いた返事も返せず、短い言葉でありがとうを伝えるぐらいしか出来なかったが、それは昔流行ったという交換日記のようだった。


 そして、今日、3/14はさくらの誕生日かつホワイトデーだというのに、デスクの上の仕事の量からして、またも帰りは深夜になりそうだった。


 元々当日は会えないという事をさくらには伝えていて、ホワイトデーには、出先で買ったマカロンを冷蔵庫に入れているので、手伝いに来てもらった時に受け取ってもらう事にして、

 誕生日お祝いは次の休日にという事になっているが、ゆっくり電話も出来なさそうな状況に俺はため息をつくばかりだった。


「んじゃ、お先っ!」

「えっ。座練ざねりさん?例の見積もり作ってもらえました?結構量多かったですよね?」


 軽やかに声を上げて定時で帰ろうとする一つ先輩の、座練躍ざねりやくに、俺は驚いて声をかけると…。


「ああ。今日締め切りとか言ってた奴?あんなんすぐに終わったよ。今送ったぜ!」


「いや、終わったなら教えて下さいよ。ちょっと待って下さい。今、中身確認しますから…!」


 俺がメールに添付されたファイル読み込んでいる内に、座練さんは小馬鹿にするような笑みを浮かべて俺を見た。


「あん?石藤、俺の見積もり書類に不備でもあるってのかよ?偉くなったもんだなぁ!

 そう言えば、次、課長だもんな?

 ま、万一不備があったとしても、出世コース間違いなしの、優秀な次期課長が直してくれますよね?」


「はぁっ?何言ってんですか!」


 俺が座練さんを睨みつけると、彼は態とらしく大きなため息をついて、俺にボソッと呟いた。


「あ〜あ、出世しようと上司にすり寄ってた俺が馬鹿みてぇ…。

 今度は俺もお前見習って美人な社長令嬢にすり寄ることにするよ。じゃっ。」


「ちょっ…!座練さんっ!!」


 俺は慌てて呼び止めたが、彼は既に去った後だった。


「何なんだよ、あの人は…。」


「座練くん、最近特にひどいね。」


 俺が呆れていると、新人の頃、仕事を教えてもらっていた、上級主任で隣の席の福井秋保ふくいあきほさん(35)が同情したように声をかけてくれた。


「石藤くんを妬んでて、嫌がらせしてんだよ。こっちの仕事片付いたから、少し手伝おうか?座練くんの見積り書チェック&直しやってあげるよ。」


「えっ…。有り難いですけど、お子さんのお迎えいいんですか?」


「うん。今日は旦那早帰りの日だから。

 この前、子供が熱出した時に石藤くんに迷惑かけたから、お返し。」


「福井さん、ありがとうございます…。」


 俺は、福井さんに頭を下げ、見積り書のデータを送った。


「あっ。座練くん、見積もりの数字全部間違ってる!今度とっちめてやらんといかんなぁ!」


「ハハ…。(やっぱり…。)」


 ファイルの中身を見て、顔を顰めている福井さんに、俺は苦笑いした。


「私は、石藤くんみたいな真面目で仕事正確な子が出世してくれた方が推せるけどね?


 偉くなったら、もっと業務のオンライン化進めてねん?在宅ワーク出来ると二児の母としては有り難いからさ。」


「は、はい…。」


 福井さんに言われて、俺は頷いたが…。


 係長の今ですら、同僚の嫉妬を受け、うまく仕事が回らない状況なのに、課長になったらどうなるんだろうと憂鬱な気持ちでいっぱいだった。


 さくらに見合う男になりたいのに、情けねえな、俺…。


         ✽

         ✽


 家に帰ったのは11時半。福井さんの手伝いのおかげで、今日はギリギリ午前様にならずに済んだか…。


「すこー…。すこー…。」


 既に、あんずは猫用ベッドの中に丸まって健やかな寝息を立てていた。


「石けんの匂いすんな…。今日もさくら来てくれたのか…。」


 あんずの体もそろそろ洗ってやった方がいいのかと思った矢先にさくらが家に来てくれ、風呂に入れてくれたらしい。


 暗い室内を目を凝らしてみてみると、整理整頓されており、テーブルの植には綺麗に畳まれた洗濯物と、桜色のノート、パンパンに膨らんだ紙の袋が置いてあった。


 ガサッ。

「…!」


 袋の中身は、シナモンロールで、「よかったら、冷蔵庫の野菜スープと一緒に食べて下さい」と付箋がついていた。


「さくら……。」


 片付いた室内に自然と用意された美味しそうな食事に自然と心が落ち着いた。


 キッチンに移動し、さくらの用意してくれた食事をとりながら、

 桜色のノートのページをめくった。


『3/14  良二さん、お帰りなさい。

 会えないのは聞いていたんですが、どうしても今日の日に、良二さんの部屋の空気を吸いたくて、来ちゃいました。


 ホワイトデーのマカロン頂きました!ありがとうございます✧✧

 一つ一つが本当に可愛いく作られていて、食べるのが勿体ないぐらいでした。


 婚約者様にこんな素敵なもの貰えるものなんて私は幸せ者です。

 本当にありがとうございました。


 あんずちゃんも食べたそうにしていました。

 そう言えば、ここで、学校の課題をさせて頂いていたんですが、なかなか終わらなくて、

「猫の手も借りたいよぅ!」

 とあんずちゃんに愚痴ったら、「ニャン♡」って、本当にお手々を貸してくれて、私の手の上に乗せてくれたんですよ?可愛いでしょう?


 あんずちゃんは、本当に癒やし猫ちゃんですね。


 最近は、学校の課題と並行し師事している先生に言われて創作スイーツのレシピを纏めているんですが、新たに肉球の模様のクッキーを作ってもいいかななんて思っちゃいました。


 もし作ったら、良二さんも、ぜひ試作品を食べてみて下さいね?


 あと、数日で、良二さんに会える日ですね。


 最近お仕事きつそうですが、ちゃんと食べて寝ていますか?寝ていますか?


 誕生日とか本当に気にしないでいいですからね。


 元気な良二さんに会えるのが私にとって何よりのプレゼントです。


 良二さん、大好きですよ?

              財前寺 桜❀』


「さくら…!」


 その真心に打たれ、俺は涙が出そうになった。


 俺もペンを取り、ノートに溢れる想いを綴った。


『マカロン喜んでもらえてよかった。

 さくら、こちらこそいつもありがとう…。こんな俺に尽くしてくれて。


 洗濯物や、あんずのお世話、助かってる。

 野菜スープもシナモンロールも美味しかったよ。

 肉球クッキーも作ったらぜひ食べてみたい。


 こんなにしてもらってるのに、最近忙しさにかまけて、さくらに何もしてあげられなくて、ごめん。


 誕生日に側にいられなくてごめん。


 クリスマスに出来なかった事も俺はまだ叶えてあげられていないのに、最近、さくらは俺に何も要求しなくなって…。失望されていないか心配だよ。


 もっと頑張ってさくらにふさわしい奴になれるようにするから、呆れないで待ってて欲しい。


 俺もさくらが大好…カクッ。』


 そこでフッと意識は遠のいた。


「……。……。」


 夢の中で、俺は温かく柔らかいものに体が包まれ、大好きな彼女の声を聞いた気がした…。



 

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