とある部下のボヤキ《青田雅彦視点》
「とにかく、大きな仕事がしたければ、もう少し身辺を綺麗にしといた方がいいよ?」
「…!!」
うっわぁ…! |||| キッツイな、アレ!
社長お得意の話術も効かず、雪森㈱の山本営業部長は、そう言い残して、振り返らずに去って行った。
後ろ姿を睨みつけながら、我が社、㈱SWANの白鳥慶一社長は拳を震わせた。
でも、いつも可愛い女子と自分に得のある相手以外は、人間だと思っていない社長が人に袖にされ、ショックを受けている姿を見るのは珍しく、僕は内心ちょっといい気味だと思ってしまっていた。
まぁ、社員の立場としては、プレゼンに参加した会社の中で一番大手の雪森さんに振られたのはもちろんまずい事なんだけどさ…。
「しゃ、社長。雪森さんは難しそうですかね…。」
不安に思った僕が、苛立つ社長に恐る恐る話しかけると、社長は険しい表情のまま頷いた。
「ああ。まぁ、雪森の上の連中は頭が固くてしょうがないさっ。ああいうの、老害って言うんだよな。他の会社からは引っ張りだこなんだから問題ない。」
「え、ええ…。そう…ですよね?」
社長は苦い顔で吐き捨てるように言い、僕も合わせてそう言うしかなかったが、事態がそんなに思わしくない事は分かっていた。
興味を持ってくれて、次の予定をとってくれたのは、中小企業ばかりだった。
今回のイベントのプレゼンで予定していた大きな売上は見込めそうにない。
ブースの展示は、17時まで予定されているので、後は偶然大企業の営業さんが回っているのを捕まえる事が出来ればだが、と思った時、社長が信じられない事を言い出した。
「ちょっと、僕は息抜きに外へ出てくるから、後、よろしくな?」
「えっ。そんな!社長?!お客さんが来たらどうするんですか?」
この状況で、ブースを抜け出そうとする社長に僕は目を剥いて、止めようとしたが…。
「説明するぐらいなら青田でもできるだろ?
あ。あと、以前、車検切れで貸してた僕の車、お前、少し擦っちゃっただろ?修理費、◯万円、今月の給料から引いとくからな。じゃっ。」
「ええ!そんなぁ……!」
この前社長に借りた車を僕が少し擦ってしまったのを、以前は数万円の修理費と言っていたのに、それより格段に高い金額を給料から天引きすると言われ、僕が泣きそうになるのを少し愉快そうに見遣って、社長は『販売促進フェス』が行われている会場の外へ出たのだった。
性格悪っ!半分八つ当たりだな。ありゃ。と僕はため息をついた。
給料がいい仕事とはいえ、気分によって、言動が大きく変化し、気に入らない人材はすぐに切り捨てる社長に部下としてついていくのは、大変だ。
この前やってしまった事を社長が知れば、僕は即座に解雇されてしまうだろう。
うっかり社用車の車検を切らしてしまっていた時に、社長の青い外車を借りて、取引先への営業に行った帰り、いつもと違う高級車の乗り心地に酔いしれ、つい気が大きくなり、住宅地にしてはスピードを出して走っていると、眼の前に子猫が固まっているのが見えた。
ここでハンドルを切ると住宅の外壁に車を当ててしまう!
猫だし、最悪轢いても大きな罪にはならないだろう…。
瞬間的にそう思い減速だけすると、次の瞬間、スーツ姿の男性が猫を助けようと飛び出して来た。
すぐにハンドルを切ったが、接触は免れず、側面を壁に少し擦りながら車を止め、外を見ると、男性は気を失ってその場に倒れていた。
すっかり気が動転してしまい、近所の人らしき男性が何事かと道路に様子を見に来たところで、僕は急ぎ車を走らせその場を離れた。
僕が悪いんじゃない。
わざわざ車の前へ飛び込んでいる奴が悪いんだ。
動揺する中、そう心の中で必死に言い聞かせた。
その後、車のガードレールに擦ってしまったと頭を下げ、社長には渋い顔をされたが、クビにはならなかった。
まぁ、社長も、俺に脱税の為の二重帳簿を頼んだり会社の金を私的な事に使い込んでいるのに目を瞑ってもらったりしているので、余程でなければ処分できないのだろう。
けれど、何かあれば今までの違法行為を全て俺のせいにして、トカゲの尻尾みたいに切り捨てるだろう事は間違いない。
社長はそう言う人だ。
轢いてしまった男性は、その後、どうなったんだろうか?
まさか、死んだりしてないよな?
自分が犯した罪に、社長に見限られる事に怯える僕は、自分だけが地獄に落とされる事のないよう、社長の違法行為の証拠を少しずつ集めるようになった。
社長。堕ちるときは一緒ですからね…。
恐らく、女の子を物色しに行ったであろう社長のスケベ面を思い浮かべ、僕は昏い笑みを湛えるのだった。
✽あとがき✽
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