イベント会場での再会 → 銀髪のあの子に
《白鳥慶一視点》
K展示場 『販売促進フェス』(株)SWAN ブース
『『毎日野菜、さいっこーにおいしいよん♪』』
スクリーンに映し出された、最近人気の双子のJKユーチューバーが息の合った動きで野菜ジュースを前に突き出したところで、僕は動画を止め、大手食品メーカーの幹部の面々に向かってにっこりと笑いかけた。
「以上が(株)SWANのプロモーション動画になります。
今、人気急上昇のタレントや、ユーチューバーを起用して、ターゲットを絞った宣伝をする事で、広告費用を抑え、かつ販促効果を最大限に発揮する事ができます。」
パチパチパチ…!
僕が話し終わると、顧客一同感心したような表情で大きな拍手をくれたのだった。
今回のプレゼンテーションも、大成功!完璧な僕だからできた事だけどね?
何社からか、詳しい話を聞きたいと申し出があり、部下の青田に日程のセッティングを頼む中、超大手の雪森(株)の営業部長が帰ろうとするところに僕は話しかけた。
「雪森(株)山本様、プレゼンテーションいかがでしたか?実は、この近くに美味しい寿司屋がありまして、この後ご都合よろしければ、そこで更に詳しいお話など…。」
「いや、お誘いは有り難いが、僕は妻の弁当があるから、結構だよ。」
「は、はあ…。お弁当ですか…?」
いかついメガネをかけた山本営業部長に、苦笑いでにべもなく断われ、僕は戸惑ったが、気を取り直して再度売り込む事にした。
「では、よろしければ、別の日時でお話をさせて頂ければと…。」
「いや、その必要はないよ。本社からはプレゼンテーションだけ聞いてくるように言われただけで、君のような人に仕事をお願いするつもりはないんだ。」
「はい?」
「君、仕事関係の女の子に次々と手を付けて、一夫多妻制の家庭を築いた上、それにも飽き足らず、色んな女の子に手を出してるって噂じゃない。」
「そ、そんな。とんでもない誤解です!僕は確かに一夫多妻制の家庭を持っていますが、誓って妻達以外の女性に手を出したりはしていません!」
蔑むような視線で、山本営業部長に非難され、僕は慌てて否定した。
チッ。誰だよ、そんな噂流したの…!
他の女性と夜遊びをする時は、完全密室コースでバレないように気をつけていたのに…!
「どうだかな…。火のないところに煙は立たないとも言うし…。
君の会社は今は勢いがいいけれど、提携してもし何か問題が起こった場合、うちの商品は家庭向けのものも多いし、女性にそっぽを向かれると立ち行かなくなるんだよね。
悪いけれど、共倒れにはなりたくないんで。じゃあ、私はこれで。」
「お、お待ち下さい。山本様!」
その場を離れようとする山本営業部長に、取り縋るように声をかけたが、彼は哀れむような表情を向けた。
「ふっ。僕の妻は一人しかいないけれど、料理もうまいし、僕や子供達を気遣ってくれる素晴らしい女性だ。他の妻が欲しいなんて思った事はないし充分幸せだけどな…。
君、案外足りてないんじゃないか?
とにかく、大きな仕事がしたければ、もう少し身辺を綺麗にしといた方がいいよ?」
「…!!」
そう言い残して、もう振り返らずに去って行く山本営業部長の後ろ姿を見送りながら、僕は拳を震わせた。
クソッ!雪森の山本め!超大手会社だからって偉そうにしやがって!
時々いやがるんだよな。若くして、一夫多妻制家庭と華やかな経歴を持つ僕に嫉妬する年配の輩が。
「しゃ、社長。雪森さんは難しそうですかね…。」
苛立つ俺に、部下の青田雅彦が不安げな声をかけてくる。
他の会社の人は予定を決め、このブースから帰った後だった。
「ああ。まぁ、雪森の上の連中は頭が固くてしょうがないさっ。ああいうの、老害って言うんだよな。他の会社からは引っ張りだこなんだから問題ない。」
俺は苦い顔で吐き捨てるように言った。
「ちょっと、僕は息抜きに外へ出てくるから、後、よろしくな?」
「えっ。そんな!社長?!お客さんが来たらどうするんですか?」
「説明するぐらいなら青田でもできるだろ?
あ。あと、以前、車検切れで貸してた僕の車、お前、少し擦っちゃっただろ?修理費、◯万円、今月の給料から引いとくからな。じゃっ。」
「ええ!そんなぁ……!」
青田の顔が泣きそうに歪むのを見遣って、僕は『販売促進フェス』が行われている会場の外へ出たのだった。
✽
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K展示場では、確か中規模な同人誌即売会のイベントが行われていた筈。
可愛いコスプレイヤーの女の子達も多いし、目の保養にでも足を伸ばしてみるか。
『僕の妻は一人しかいないけれど、料理もうまいし、僕や子供達を気遣ってくれる素晴らしい女性だ。他の妻が欲しいなんて思った事はないし充分幸せだけどな…。
君、案外足りてないんじゃないか?』
山本の奴、いけ好かない中年親父だが、その言葉には一理あるような気がした。
三人の妻を持つ僕だが、一人として僕を満たしてくれる素晴らしい女性はいない。
三人の中では、香織は、家事をそこそこやる方だが、料理がすごく美味しいかというと、そうでもない。
綺羅莉、舞花は、子供を生んでくれはしたが、しばしば常識がない。
そして、僕を優しく気遣ってくれる妻など皆無。
そうだよ。僕が一途になれないのは、僕を満たしてくれる素晴らしい女性とまだ巡り会えていないからなんじゃないか?
料理上手で、控えめで、僕を気遣い、他の妻ともうまくやっていける若くて美しい理想の女性と出会えたなら、今の状況も変わるのではないか?
そう考えた時、過去に会った娘で、そんな可能性を秘めた人が一人いた事に思い当たった。
仕事で、T調理専門学校に立ち寄った折、学生の中にお淑やかな性格で銀髪に青い目の美少女がいたっけ。
アプローチを測ろうとしたが、彼女は具合が悪そうで、先生や友達にガードされ、その時はなかなか関われなかった。
調べてみたら、彼女はRJ株式会社の社長令嬢、財前寺桜さんだった。過去に何度か見合いをしているが、男性と話をすると具合が悪くなってしまい、結果はうまく行かなかったらしい。
よっぽど見合いをしたのが生理的嫌悪を催す程、ブサイクな凡夫達だったんだろう。可哀想に…!
完璧にカッコイイ王子の俺がそんな状況から救い出してあげよう。
そんな使命感を持って、父親である財前寺氏に見合いの打診をしたのだが、 柔らかい物腰ながら、きっぱりと断られた。
既に三人の妻がいる事もネックになっていて、
無理に娘に近付こうとするなら、やんわり仕事上の
影響があるかもとまで言われてしまい、仕方なく断念した。
欲しいものは大体なんでも手に入れてきた僕が、唯一手に入らなかった経験をしたせいか、今でも天使のような銀髪美少女の面影は心に残ってしまっているのだった。
父親がどうであろうと、彼女と一度会うことさえ出来れば、あの手この手で彼女を口説き落とす事が出来るのに…。
そんな事を考えながら歩いていると…。
「ふんふんふ〜ん♪」
…!!!
イベント会場付近のベンチに、今人気のアニメ『魔女っ子EARTH』の「MOON」のコスプレをした銀髪美少女=財前寺桜さんが鼻歌を歌いながら人待ち顔で座っているのを見て、俺は信じられない思いで目を見開いた。
ちょうどその人の事を考えていた矢先に、偶然会えるなんて…!!
僕は彼女との運命を感じずにはいられなかった。




