完璧に王子な僕
高校2年の文化祭も間近な頃、休憩時間、演者グループラインに、石藤良二が香織の親友である須藤穂乃香を押し倒しているような画像がアップされ、石藤の彼女の瀬川香織が青褪めてショックを受けるという出来事があった。
そしてそのすぐ後、俺は、魔女役、クラスでは割とヒエラルキー高めのリア充グループのギャル、屋川由依から学校の裏庭に呼び出しを受けた。
「え?この演者グループへの投稿、君がやったの?」
「え?うん…。だって、白鳥くん、この前石藤と穂乃香がくっついてる画像、香織が見たらどうなるかなって、あーしに言ったじゃん?
だから、あーし、白鳥くんの為に…。」
小さな美しい花壇の近くで、それに不似合いな派手な化粧の屋川由依が、思い詰めたような表情でゴテゴテネイルの施された指をもじもじと組み合わせながら、告白して来た。
僕は内心ほくそ笑みながら、彼女に信じられないというような表情を向けた。
「僕が言ったのは、彼女が辛い思いをしたらいけないと心配していたんだよ。君、とんでもない事をするなぁ…!」
「えっ!でも、あの時、確かに、そうしたらデートしてくれるって…。」
驚く彼女に、過去の発言について訂正をしてやった。
「クラスメートを心配する相談事なら受けるよって言っただけだよ。」
屋川由依は、以前彼に体ばっかり求められて本当に愛されてる気がしないという恋愛相談を僕にして来て、別れる為のアドバイスをしてやって以来、分不相応にも僕と付き合いたいと考えているようだった。
ビッチの彼女など、クラスの優等生で、美人の瀬川香織を手に入れる為の捨て駒でしかないのに、思い上がりも甚だしいね。
「クラスメートを陥れようとするなんて、二人にバレたら、停学や退学処分になるんじゃないか?どうするの?」
「えっ!停学や退学?!ヤバっ!ど、どうしよう…||||」
青褪める彼女に俺は神妙な顔をして言い聞かせた。
「バレないようにするには、仕方がない…。僕の言う通りにするんだよ?」
*
*
そして文化祭数日前ー。
「瀬川さん。気分転換に、少し外の空気を吸いにいかないか?」
二人の事が気になって、僕は、なかなか演技に集中出来ない様子の瀬川香織を外へと誘った。
「え。えっと…。」
少し躊躇っていた彼女だが、大道具係として須藤穂乃香と一緒にいる石藤良二を見て辛そうに顔を歪めると、頷いてくれた。
「う、うん。ちょっとだけなら…。」
「よかった!」
僕は、王子の笑顔を浮かべた。
彼女の性格と今の心境からして、あまり騒がしいところへ行きたくない筈だ。
学校の裏庭の静かな一角へ瀬川香織を連れて行くと…。
「わぁ、綺麗…!」
ホラ、ドンピシャだ…!
園芸部の作った花壇の小さな花々に、彼女が歓声を上げると、僕はにっこりと笑った。
「ここ、静かでいいところだろ?今、瀬川さんあんまり騒がしい場所へ行きたくないだろうと思ってさ。」
「…!!」
気持ちを言い当てられ、目を丸くする彼女に、その後、僕は告げたのだ。
「他の女の子と浮気するような男子なんか別れて、僕と付き合わないか?
僕の方が彼より君の事を分かってあげられると思うよ?」
と…。
石藤の事をまだ完全には振り切れない様子だったが、その時の彼女は頬が紅潮し、目が輝いていた。
だから、僕は確信したのだ。これはいけると…!
ビッチの屋川さんには、いい場所を教えてくれた事に感謝しなきゃいけないね。
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そして、迎えた文化祭当日ー。
僕の言葉が効いたのか瀬川香織の演技も順調で、ほとんど全ての演技が終了し、後は、僕と彼女のキスシーンからの目覚めでフィナーレというところまで来た。
「なんて綺麗な方だろう…!」
王子役の僕が、眠り姫役の瀬川香織に近付き感嘆の声を上げた。
そして、僕は彼女に更に近付き…。
チュッ。
「!!?」
柔らかい唇に短く口付け、瀬川香織が目を見開くと、僕は、王子に相応しい蕩けるような笑顔を彼女に向けた。
「(今のキスは、王子として。そのまま眠り姫として演技を続けて。)」
僕がそっと囁くと、その瞬間、彼女の頬に朱が差した。
瀬川香織は魔法にかけられたように、恍惚の表情を浮かべ、僕と手を取り合い立ち上がった。
劇も成功し、自分に相応しい姫も手に入れた王子の俺は、観客から、割れんばかりの拍手と歓声が飛ぶのを万感の思いで聞いていた。
後は、邪魔な奴らを後片付けするだけだ…。
俺は王子だから、慎重かつスマートに行動しなければね…!
*あとがき*
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